近年、ニュースや本で「スマートシティ」という言葉を目にする機会が増えてきました。
この未来志向型のまちづくりにおいて、様々な業界がその枠を越えて技術開発や社会実験、事業に取り組んでいます。
本稿では、スマートシティが必要と言われる背景や、今社会から求められているスマートシティのあり方について考えてみたいと思います。
INDEX
膨らむ都市と縮む地方は世界共通の課題
世界では、都市部への人口集中や新興国の都市化が加速しています。この結果、エネルギー需要の拡大や交通混雑への対応、計画的な都市づくりや更新等が大きな課題となっています。
他方、わが国では、地方部から都市部への人口流出や、自治体等の財政難が進んでいます。地域産業の担い手不足やインフラの老朽化によって公共サービスそのものの持続性が脅かされて、さらに、新型コロナウイルスや気候変動といった脅威や危機が現実のリスクになっています。これらに耐えられるようなレジリエンスなまちづくりは、世界共通の課題です。
デジタル×まちづくりで暮らしやすく
スマートシティとは、このような課題を解決し、私たちの暮らしをより良くするために、先進技術を活用した都市やまちを指します。
スマートシティ構築にあたって、特に近年、デジタルツインという技術が注目されています。これは、仮想空間上に現実空間を再現し、フィジカルで得られるデータを仮想空間上で解析したり未来予測を行ったりして、その結果を現実のまちづくりに反映させるためのしくみと言われています。
例えば、交通情報を基に渋滞予測を行い、その結果を自動運転システムに反映させるような取り組みが考えられます。
柔軟性と強靭性、持続性を都市に装備
もう少し具体的に、ここでは交通、防災、エネルギーの3分野について、社会的に求められている取り組みを挙げます。
1.交通
- 交通渋滞の解消や豊かな道路空間創出に向け、道路交通シミュレーションを用いたリアルタイムでの車線数変更、柔軟な信号現示
- シームレスな交通環境の構築に向け、人流シミュレーションを用いた最適移動ルートの情報提供(電車・バス・パーソナルモビリティー等)
- 豊かな都市空間の創出に向け、駐車場の利用状況に合わせたフレキシブルな転用(例:コミュニティースペース、ワークスペース、防災備蓄倉庫、キッチンカー等の移動物販スペース)
2.防災
- 気象情報を踏まえた浸水や土砂災害等の災害シミュレーションを用いた避難誘導支援
- 災害時の避難所、防災備蓄倉庫のリアルタイム情報把握システムを用いた物資輸送支援
- 衛星やドローン等を用いた画像解析による早期災害復旧支援
3.エネルギー
- 電力需給シミュレーションを用いたエネルギー利用と調達の最適化
- 自立分散型の電源(蓄電池、EVカー含む)の整備に基づく災害時の電力安定供給
脱炭素を実現する
都市は整備され、運営している時間の方が長く、その過程で生まれる課題を解決していかないと、都市の価値は下がってしまいます。特にこれからは「脱炭素化」に向けた取り組みが、社会から強く求められます。
そのため、環境・社会・ガバナンスといったESGの観点から、前述の取り組みを複合的に掛け合わせて収益化を図ることで投資を呼び込み、経済的な付加価値を高めることが大切になると考えます。
ここで挙げた取り組みは、デジタル技術だけでなく、私たちがこれまで積み重ねてきた人と社会インフラとの関わりに関する知見や技術があってこそ実現できるので、今後、私たちが担う役割や責務は、さらに大きくなると考えます。
私たちは、業界の垣根を越えた連携や共創によって、社会からの要請に応える先導役となりたいと考えます。
出典:『いいね! 建設産業 本当の魅力 仕事の中身を知れば、もっと関わりたくなる』 建設未来研究会 著、日経コンストラクション 編、日経BP
※日経BPの了承を得て、文章を一部改変して掲載しています