INDEX
- 首都高日本橋地下化プロジェクトを通してインフラ整備に対して思うこと
- 日本橋地下化におけるまち・かわ・みち一体となった整備への転換点
- 従来のインフラ整備における枠を超えた日本橋地下化事業
- 複合的な技術をつないだ地下化への戦略的アプローチ
- 日本橋地下化事業で発揮した当社の総合的な技術力
- 日本橋プロジェクトとプロジェクト型業務へのコンサルタントのあるべき姿
- ★日本橋今昔 番外編★
首都高日本橋地下化プロジェクトを通してインフラ整備に対して思うこと
私たちは複雑な制約条件の中で、インフラ整備の在り方に関する社会的意義や妥当性を組み立て、設計や関係者とのコミュニケーションを進め事業推進を支援してきました。
「首都高速日本橋区間の地下化整備事業」は、従来のインフラ更新の在り方について一石を投じた国家プロジェクトとなりました。導入空間や事業性に大きな制約を受ける地下化事業は、一般的に従来の物理的評価枠組みでは低評価になることが想定されます。一方で本事業は、都市の品格や憧憬、青空を取り戻すという人間本来が持つ強いあこがれ、あるべき姿に対して英断を下したプロジェクトです。まさに、まちづくりの潮目を変える、パラダイムシフトの真っただ中にあるプロジェクトです。
本事業の評価は後世に再度判断されることになると思いますが、公共インフラの整備は説明責任が必須です。日本橋地下化事業はその事業検討プロセスにおいて、一国の長である総理大臣の思いを検証するなど、グランドデザインに強い意志を持ってアプローチするプロジェクトであることを、あらためて強く認識させられます。
日本橋地下化におけるまち・かわ・みち一体となった整備への転換点
2001年、当時の扇国土交通大臣による、「日本橋の高架に覆われた景観を一新する」というメッセージにより、首都高の日本橋地下化に向けて、多くの委員会でそのあり方が検討され、提言書が提出されました。
なかでも、2006年9月の小泉総理の諮問に基づいた『日本橋地域から始まる新たな街づくりに向けて』提言書(日本橋川に空を取り戻す会 伊藤滋、奥田碩、中村英夫、三浦朱門)は、従来のインフラ単独の更新から街づくりとの連携、民間が先導してまちづくりを行い、公共はこれを受けてインフラの整備を行うという従来の枠組みを超えた提言がなされました。
その提言において、本事業の意義として以下のように指摘されています。
- 効率性重視より品格ある国づくりへの象徴的プロジェクト
- 街・川・道を一体的に整備して、潤いと賑わいのある魅力的な都市空間を創出する。
- 国民が誇りを感じ、外国からも憧憬を持って見られる首都・都心へ
2014年に首都高は大規模更新区間を公表し、日本橋周辺区間について、高架橋での大規模更新、立体道路制度を活用した地上空間での更新、地下での更新などが検討されました。2017年に国土交通省及び東京都により、地下化により大規模更新をすることが公表されました。特に、事業の推進に当たっては"街づくりとの連携"が事業化の大きな柱とされています。
従来のインフラ整備における枠を超えた日本橋地下化事業
- 本事業は政治発信による国家プロジェクトであり、その検討スキームやまちづくりと連携した事業手法の提言など、従来とは異なったアプローチにより事業推進が行われています。
- 特に、国家戦略特区とインフラ更新の連携、立体道路制度適用を含めて民間の事業負担スキームを明示されていることが特徴であり、まさに、従来のインフラ整備における枠組みを超えた先進的な取組です。
複合的な技術をつないだ地下化への戦略的アプローチ
- 首都高の交通機能面で果たす将来的な役割や環境への影響、事業の在り方、都市再生プロジェクトとの連携など多面的な視点でプロジェクトの妥当性、社会的評価を実施し、様々な技術を複合的につないでいます。
- 効率性のみでなくインフラ整備に対して品格や憧憬をもたらすプロジェクトとしての可能性を追求しています。
日本橋地下化事業で発揮した当社の総合的な技術力
現在の首都高日本橋地区を地下化するためには、既存のインフラ更新に関する技術的な知見に加え、あらためて首都高の持つ経済動脈としての機能、交通処理機能、物理的な導入空間のありかた、まち・かわづくりとの連携方法など、社会的な影響について十分配慮する必要がありました。
当社ではこれらの多面的な影響について業務を通じて代替案を提示するとともに、地下化に向けた意思決定資料を提供し続けています。
TRANDMEX(交通量予測システム)を活用し交通影響の分析
特に、地下化計画の基本となる事業可能性調査において、首都高と当社が共同開発したTRANDMEX(交通量予測システム)を活用し交通影響を分析し、輻輳する地下埋設物を避け、針の糸を通す線形検討を行いました。首都高の場合、独自の線形計画手法が採用されており、わが社は長年培った技術を継承し、最適な線形案を提供してきました。まさにエッセンシャルパートナーであり、トップランナーの位置にあると自負しています。
CIMモデルの作成による日本橋地下化のプロセスの可視化
また、具体的な設計検討については、輻輳する地下埋設物や管理主体の異なるインフラの更新整備に対して首都高で初めてのCIMモデルを作成するなど、日本橋地下化のプロセスの可視化、整備インフラの干渉状況を明らかにしました。
周辺の再開発との調整、日本橋川との関わりなど、設計条件の詳細が確定しない中、最新の解析手法を提案し、地下化に向けた構造物整備に向けた望ましい在り方やリスクを指摘しています。
一方、日本橋区間の地下化は周辺への環境や日本橋川への影響も克服すべき大きな課題です。当社では地下化に伴う地下鉄やライフライン、周辺の建築物への影響がないか検証すると同時に、日本橋川の河道等の整備条件や工事中の影響等(水理面)を水理模型実験(複雑な流れの形状では、数値解析では十分な解が得られないため)で検証しました。
さらに、地下化に関連した機械、電気、建築などワンストップの体制を構築し、その業務に対応してきました。
日本橋地下化プロジェクトは、まさに、当社の総合力を結集することにより達成することができたプロジェクトであると考えています。
日本橋プロジェクトとプロジェクト型業務へのコンサルタントのあるべき姿
日本橋地下化事業は呉服橋、江戸橋のランプが撤去されるなど、目に見える形で事業が推進されています。当該事業の最終完成形『日本橋に空を取り戻す!』は2040年ごろが想定されています。扇国土交通大臣の発言から40年後、半世紀弱の壮大なプロジェクトです。
わが社は1963年の都心環状線の整備から日本橋地下化までのインフラ整備・更新に携わることになりました。
コンサルタントの事業領域も、単体の設計支援から事業可能性調査(F/S調査)、設計・維持管理などに領域が拡大してきています。さらに、昨今では事業コミュニケーション、事業監理など事業推進に関するマネジメント領域へも展開してきています。
私たちは、設計領域における技術の深度化による最新の知見によるインフラ整備、さらには管理・運営を含めた全体系のソリューションを提供していくことが必要であると考えています。そのためには、従来にはなかった複雑・多岐にわたるインフラ整備に対して、着実にチャレンジしていくことが重要だと考えています。
★日本橋今昔 番外編★
2022年に首都高都心環状線の江戸橋、呉服橋のランプ撤去工事が開始され、地下化に向けた槌音に加え、ほんの少しだけ日本橋川から蒼天が見えてきました。また、常盤橋地区のD地区ではトーチタワーが姿を見せ、日本橋のおひざ元の日本橋中地区では地下化事業と連携を図りながら、再開発事業(既存建物の撤去等)が進められています。
日本橋は言うまでもなく、日本の道路元標(国道の起点)が有るところですが、周辺にも歴史小説に登場する呉服町とか八丁堀が近くにあります。また、獅子文六の『大番』、清水一行『小説 兜町』などで有名な、兜町の総本山、日本証券取引所が近くにあります。円の屋根と噂される(本当は偶然のようですが)日本銀行本店も徒歩圏にあります。
一見は百聞にしかず!是非、日本橋周辺の都市再生のダイナミズムを体感し、首都高の高架橋が撤去されたシーンを思い浮かべてみてください。わくわくしてきます。