農林漁業者(1次産業)、食品加工業者(2次産業)、流通・販売業者(3次産業)が手を組み、農山漁村をはじめとする地域の経済を豊かにしていこうとする「地域内6次産業化」。
当社では、道の駅の指定管理業務を通じて、この「地域内6次産業化」の取り組みを展開しています。道の駅と生産者・事業者が連携したこういった取り組みは、どの様に進められているのでしょうか。
今回は、滋賀県甲良町を舞台に進められた道の駅オリジナルクラフトビールの開発・製造・販売プロジェクトについて、株式会社彦根麦酒(ヒコネビール)の小島なぎささん(醸造責任者)、豊村美久さん(ブルワー)、そして、パシフィックコンサルタンツ株式会社の金織昭人(道の駅せせらぎの里こうら 駅長)、福山聡(飲食&食料品事業企画開発担当)、信夫あゆみ(地域資源活用事業企画開発担当)の5者で対談を行いました。
INDEX
新商品開発への思いと彦根麦酒との出会い
――昨年、道の駅せせらぎの里こうらのオリジナルクラフトビールが発売開始されました。どのような役割分担で、開発・製造・販売に取り組まれたのでしょうか。
金織:道の駅せせらぎの里こうら(以下、「道の駅こうら」)のオリジナルクラフトビールは、現在までに「甲良黒豆PALE ALE」「甲良米WEIZEN」「甲良柚子IPA」の3種類を販売しています。黒豆とお米は農事組合法人ファームかなや、柚子は一般社団法人ゆずのだいどこから、それぞれ甲良産の農産物をご提供いただいています。そして、各ビールのレシピ開発やラベルデザインは当社と株式会社彦根麦酒(以下、「彦根麦酒」)が担当し、製造は彦根麦酒に委託、販促活動や販売は道の駅こうらが担当しています。
――プロジェクトを開始されたきっかけをお聞かせいただけますか。
金織:道の駅こうらの直売所ではオリジナル商品が少ないということが大きな課題で、特産品となる新たな商品を作りたいと思っていました。当社では千葉県睦沢町でも道の駅の運営を行っているのですが、そこで睦沢産のお米を使ったオリジナルクラフトビールを販売したところ大変好評だったんです。そのような経緯から、道の駅こうらでも地元の農産物を活かしたオリジナルクラフトビールを開発しようということになりました。
――数ある醸造所からどのような経緯で彦根麦酒さんにお話を持ちかけられたのでしょうか。
金織:甲良町のある湖東地域の観光地域づくり法人である近江ツーリズムボードから、偶然彦根麦酒をご紹介いただいたんです。様々な醸造所を訪問していたさなかでしたので、本当に良いタイミングでした。彦根麦酒は甲良町の隣町である彦根市の醸造所でしたので、すぐに繋いでいただき、「是非一緒にビールを作りたい」とお話をさせていただきました。
信夫:彦根麦酒は「自然環境と調和した持続可能なクラフトビール作り」というコンセプトで運営を行う先進的な醸造所でしたので、そういった理念にも共感したんです。
――彦根麦酒にとっては突然のご依頼だったと思います。ご依頼があったときはどのようなお気持ちでしたか?
豊村:このような共同開発やOEM(製造受託)のお話は初めてだったので、小島と二人でざわざわとしていました(笑)
「上手くいくだろうか」という不安は正直なところ感じていましたね。
小島:直感的にはすごく良い取り組みだなと思いました。彦根麦酒荒神山醸造所は2021年5月にオープンした環境配慮型の醸造所で、ビールの原料全てを彦根産で賄う「ALLHIKONE BEER」を目標にしています。副原料として地元の農産物を活用するということは、彦根麦酒としても積極的にやりたいことでしたので、お受けすることになりました。
コンセプトやターゲットを意識したレシピ開発
――副原料はどのように選定されたのでしょうか。
金織:睦沢町のオリジナルクラフトビールプロジェクトの担当者であり飲食業界での経験もある福山が開発担当となり、甲良町の特産品の中からビールに合う副原料として、比較的安定して収穫できる黒豆、お米、柚子を選定しました。
福山:黒豆を選定した理由は、食品ロスを減らすという観点もありました。味や品質には問題が無いのに規格外で売れ残ってしまうB級品を使うことで、SDGsとしての取り組みを行いたいという意図もあったんです。
――これらの農産物は、甲良町の地域団体からご提供があったというお話でした。
信夫:はい、甲良町内の事業者により設立された「こうら・ウエルネスツーリズム実行委員会」では以前から、「甲良町の特産品開発をしたい」というお話がありました。そこで実行委員会で提案したところ、地域団体の皆さんからすぐにご提供いただけることになったんです。
――クラフトビールと言えば多種多様なビアスタイル(ビールの種類)があると思います。そのあたりはどのように決められましたか。
信夫:まずはクラフトビールに関する様々なレポートを参考にコンセプトやターゲットを設定し、それを基にビアスタイルやパッケージデザインを決定しました。
「甲良黒豆PALE ALE」はペールエールという種類ですが、飲みやすく幅広い年齢層の方に楽しんでいただけるものを目指しました。飲みやすいビールでありつつも、黒豆を使っているという珍しさや、黒豆の香ばしい風味が味わえるという独自性から手に取ってもらえるようにと意識しています。
「甲良米WEIZEN」はコクを出した深い味わいを重視しています。ヴァイツェンというスタイルで、少し年齢層が高い方に手に取っていただきやすいものとして、パッケージも落ち着いたデザインになっています。
「甲良柚子IPA」は、IPAという若い方に人気のビアスタイルを採用し、柚子を入れることでビールの苦味が苦手な方でもフルーティーで飲みやすいビールというコンセプトを考えました。
――彦根麦酒として共同開発・OEMは初めてというお話でしたが、開発製造中はどのようなお気持ちでしたか?
小島:レシピ開発の際、自分とは全く違う発想やアイデアをいただけたのが斬新で面白かったですね。黒豆は私の想定していた黒ビールとは全く違うペールエールをご提案いただいたり、ヴァイツェンについても苦味を出して通常のものとは少し違う味わいになりました。
豊村:香りの出方や味わいについて、上手くご希望に添えるかなというドキドキ感や責任感を感じていました。同時に、とてもワクワクしながらビールづくりを進めていました。スタッフ総動員で副原料の下処理をしたり、とても愛情を注いだビールになりました。完成したビールはすごく美味しく出来上がって、皆さんに喜んでいただけるものになったと自負しています!
販売開始後、想定以上の反響が!
――販売開始後の反響はいかがでしょうか?
金織:第一弾の「甲良黒豆PALE ALE」は初月の2022年8月に200本以上が売れ、発売開始直後から道の駅の人気商品になりました。その後に発売した2種類もよく売れていますね。もちろんポスターやSNS等の販促活動の成果もありますが、購入者へのアンケート結果をみると各ビールとも味について高評価をいただいていまして、口コミで広がっているという実感もあります。道の駅こうらは「石窯ピザ」が売りの一つなのですが、ピザを食べながらビールを飲んだ方が、更にお土産として購入してくださるということもありますね。
福山:千葉での成功もそうですが、クラフトビールのブームや、クラフトビール好きの方と道の駅を巡る方の層がマッチしていたということが背景にあると考えています。旅先でしか味わえない食を求めるお客様にとって「道の駅こうらでしか買えないビール」であることも好評な理由のひとつだと思います。
――これからの展開としてはどのようにお考えでしょうか。
金織:甲良町と話をしており、ふるさと納税の返礼品で使っていただくということで最終調整に入っています。また、道の駅のECサイトを今年度中に立ち上げ、そこでもビールの販売をしていきたいと考えています。コロナ禍が明けて、各地で物産展の開催も再開されると思いますので、そういったところでもオリジナル商品として推していきたいと思っています。
相乗効果で地域を活性化させる
――最後に、今回のプロジェクトに関わってきて、それぞれの立場からのご感想をお聞かせいただけますか。
小島:今回のビールの発売後、お客様から「黒豆のビールはありますか?」と問い合わせがあったのですが、その際に道の駅こうらのことをご紹介できました。
地域や関わった事業者が相乗効果で良くなるような仕組みだなと実感しています。全国各地には多くのクラフトビールファンがいますが、このプロジェクトが私たちの地元のことを知ってもらえるきっかけの一つになって欲しいと願っています。
豊村:ありがたいことに新たなOEMのお話もいくつか頂いています。私たちは小規模醸造所なので上手くバランスを取りつつではありますが、特色の一つとして今回のようなプロジェクトにも取り組んでいければいいなと考えています。
信夫:地域の農産物を使った加工品はお土産としてもおすすめしやすく、甲良町の新たな特産品ができ、すごく良かったなと思います。ビール購入者へのアンケートの中で、「ヨーロッパで出逢う地ビールのようで、とてもおいしい」「飲む価値があるおいしさで、このビールに出逢えてよかった」「地域の農業の応援にもなるので、地域の素材を活かしたビールを今後も楽しみにしたい」というような嬉しいお声をいただいているので、今後もそういった商品作りをしていきたいと思います。
福山:今後は道の駅と彦根麦酒を結びつけたバスツアーを企画するなど、更に交流を深めてお互いに利益が出るような仕組みを作っていきたいと考えています。
金織:地域内6次産業化の取り組みは簡単ではありませんが、今回は関係者がお互いに意見を出し合って本当に良い商品ができ、それが評価されて商品が売れたのだと考えています。甲良町の主力産業は農業ですので、他地域と差別化を図るためにも、これからも新たな6次産業化の取り組みを行っていきたいと思っています。
――このクラフトビールを通した更なる甲良の発展を願っています。ありがとうございました!