「6次産業化」は、農林漁業者(1次産業)、食品加工業者(2次産業)、流通・販売業者(3次産業)が連携し、地域の経済を発展させる取り組みです。当社では、道の駅の指定管理業務を通じて、地域内の6次産業化を推進しています。
滋賀県犬上郡甲良町にある道の駅せせらぎの里こうらでは、2022年に新たな特産品として「オリジナルクラフトビール」「甲良産フレッシュ野菜の生ピクルス」「甲良産素材のおいしい乾燥果実(柿)」の開発・製造・販売を行いました。
今回は「甲良産フレッシュ野菜の生ピクルス」「甲良産素材のおいしい乾燥果実(柿)」のプロジェクトに関わった、農事組合法人ファームかなや代表の鋒山さん、農事組合法人ファームかなやが運営する農家レストランおだいどこ野幸の皆さんと、道の駅せせらぎの里こうら駅長でありパシフィックコンサルタンツ株式会社の金織昭人(道の駅せせらぎの里こうら駅長)、同社商品開発担当の福山聡(飲食&食料品事業企画開発担当)と信夫あゆみ(地域資源活用事業企画開発担当)にお話を伺いました。
INDEX
繋がりから生まれた新商品
――まずは今回のプロジェクトの役割分担と開始の経緯を教えていただけますか。
金織:道の駅こうら限定の生ピクルス、柿の乾燥果実は、レシピ開発やラベルデザイン、販促活動や販売を道の駅こうらが担当、原材料の栽培・調達はファームかなや、製造はおだいどこ野幸に委託しています。6次産業化の取り組みのひとつとして「甲良町の野菜を使った特産品を作りたい」と考えていたところ、当社内で「生ピクルス」という案が挙がりました。そこで、ファームかなやとおだいどこ野幸にお声がけし、このプロジェクトが立ち上がりました。
――道の駅こうらとファームかなや・おだいどこ野幸とは、元々ご交流があったのでしょうか。
金織:はい、道の駅のオープン以来、惣菜やお弁当、焼き菓子、おだいどこ野幸の名物である黒豆味噌などを道の駅に出荷していただいています。また、「こうらウエルネスツーリズム実行委員会」という観光振興のための実行委員会での繋がりもありました。その中で、事業者同士がコラボして商品開発をしていきたいというお話もあり、今回お願いしたというところです。
鋒山:2013年頃に地元の女性のみなさんを中心にファームかなやの加工部が発足し、町の施設を借りて加工食品を作り、道の駅に出荷していました。2018年には農家レストランおだいどこ野幸がオープンし、こちらがレストラン兼加工部の拠点になっているという形です。
――おだいどこ野幸の皆さんは、「生ピクルスを作りましょう」と最初にお話があった時どう思われましたか?
おだいどこ野幸:おだいどこ野幸のメンバーにとってピクルスは馴染みがなく、最初は売れるかどうか半信半疑でした。ピクルスを試食したときの私たちの最初の印象が「酸っぱ!」だったんですよ。「果たしてこの味がお客様に受け入れられるのかな?」「これだけの高いお金を出して買ってくださるのかな?」という不安を感じながら作っていました。それが思いがけず売れたんです!
――皆さんの予想に反して、良い方に転んだんですね。
信夫:実は、私たちが千葉県睦沢町の方で運営している道の駅でも、当時「睦沢産野菜を使ったきまぐれピクルス」という商品を販売していました。その販売実績から、ピクルスにはかなりのニーズがあると分かっていたんです。生のお野菜だと短い期間で消費しないといけませんが、ピクルスとして加工すると少し長い期間楽しめるので、そういった点でも道の駅のお土産として受け入れられるのではないかと話していましたね。
――生ピクルスの後に柿の乾燥果実の販売も始められたと思います。その辺りはどういった経緯でお話が進んだのでしょうか。
金織:おだいどこ野幸で食材を乾燥する機械をお持ちだったというところから、乾燥野菜・果実を作ってみようということになりました。試作では、イチゴ、イチジク、菊芋、柿などいろいろと試していただきましたよね。
おだいどこ野幸:お野菜だとトマトやカブも試しましたね。
金織:その中で、まず始めに一番美味しく一定の品質で製造できたのが柿で、乾燥果実シリーズの第一弾として商品化しようということになりました。
甲良町産へのこだわり
――商品についてお伺いしたいと思います。ピクルスは加熱したものではなく生というところにこだわりを感じます。
信夫:せっかく新鮮で美味しいお野菜を使うので、食感をなるべく残してサラダ感覚で食べられるように、生ピクルスにしようということになりました。
――使用されているお野菜にもこだわりはございますか?
福山:今回の一番のコンセプトが甲良町産の野菜を使うということだったので、ファームかなやのお野菜やこの辺りのご家庭で作られているお野菜も使っていただいています。
金織:あとはご無理を言いましたが、瓶に入れたときに彩りが良くなるようにと我々からお願いしました。
――季節によって野菜の調達が難しそうですね。
おだいどこ野幸:野菜がたくさんある時期は安く原材料が手に入りますが、やはり野菜があまり無い時期は追加で購入しないといけないので、そういった時期に原価が高くなってしまうというのは課題としてありますね。夏は彩りの良い野菜がたくさん採れるのでピクルスも多く製造することができ、尚且つ一番よく売れる時期でもあるので製造が追いつかないという問題もありました。
――よく売れるからこその嬉しい悲鳴ですね。
信夫:道の駅に入荷するとTwitterで「ピクルス入りました!」とツイートするのですが、どんどん売れていくというような状況でしたね。
金織:発売開始から1年ほどが経過した中で、商品が出やすい月と出にくい月というのが分かってきたので、今後は無理のない年間製造計画を作っていきたいと野幸とご相談しているところです。
商品を広めるための様々な工夫
――クラフトビールの開発ではターゲットを設定しておられましたが、ピクルスや乾燥果実も同様に戦略を考えられたのでしょうか?
信夫:はい、両商品ともに観光客の方をメインターゲットとしていました。既存の文献などを調べていく中で、特に健康志向の方や日々の食生活の中で手軽に野菜を取りたいという方がターゲットになると考えまして、ラベルデザインは健康的なイメージや生野菜のフレッシュさ、清潔感が伝わるように意識しました。
――既に人気商品だと思いますが、これからより多くの方に届けるために工夫されていることや考えていらっしゃることはございますか?
信夫:更に、SNSなどを中心に発信を強化していきたいですね。最近だとYouTuberの方にモニターで来ていただいて、ピクルスや乾燥果実をはじめ甲良町の食べ物を紹介していただきました。今後、商品のストーリーがわかるような体験プランのようなものも作りたいと考えています。
金織:オリジナルクラフトビールと同じく、ふるさと納税の返礼品としても申請中です。ビールとピクルス、乾燥果実のセットを作って提供したいと考えています。また、乾燥果実は当初クッキーやお菓子の売場に並べていましたが、手書きのポップと共にビールの近くにも置いたり、陳列の工夫も行っています。
――ビールと乾燥果実はすごく相性が良いですよね!最初から構想にあったのでしょうか?
金織:実はそこまでは構想になかったんです。「乾燥果実はワインとかビールに合うんじゃない?」という本社の責任者の一言から、陳列の場所を増やしました。すると商品の回転が良くなりました。ニーズに合わせて商品を陳列することで、効果が出ましたね。
豊かな自然環境を守り、地域全体でWinWinの関係を
――ファームかなやとしては今後の活動方針をどのようにお考えでしょうか?
鋒山:甲良町で採れるものは本当に何でも美味しいんですね。おだいどこ野幸の目の前を流れる犬上川の上流に犬上ダムという日本で初めて建設された本格的な農業用コンクリートダムがあるんですが、その豊かな水の恵みを受けているのでまずはお米が美味しいんです。あとは、私も子供の時から耳にするのですが、「かなやのサツマイモは美味しい」とか。
おだいどこ野幸:うんうん。土質が合っているみたいですね。
鋒山:よく言われますよね。この土地には自然の恵みからくる美味しいものがたくさんあるので、地元を維持していくために今後も頑張っていきたいです。
――おだいどこ野幸の皆さんは今後についていかがでしょうか?
おだいどこ野幸:今甲良町に住んでいる人はほとんどが高齢者で、おだいどこ野幸もメンバーの体力的な面で維持していくのが大変な状況になりつつあります。そんな中でも、毎月工夫して野菜中心のお料理を提供していると、「すごいね」「美味しかったわ」と言ってくださるお客様がいたり、三重や岐阜など遠方からのリピーターさんも多くいらっしゃるので、それが励みになって頑張れています。いつまでも生き生きと働ける貴重なこの場所を、少しでも長く守っていきたいなと思っています。
福山:おだいどこ野幸をはじめ甲良町のお店と道の駅がお互いに利益を上げていくという方針は今後も変わらずに進めていきたいと思っています。これからもお元気で、末永く一緒に取り組んでいきたいのでよろしくお願いします!
おだいどこ野幸:そうですね!元気で!(笑)
信夫:道の駅に出荷されているおだいどこ野幸のお菓子やケーキ、フルーツ大福は、素材の風味が生きていてとても美味しく、私自身すごくとても好きなんですが、そんなおだいどこ野幸と今回ピクルスの開発ができて嬉しく思っています。今後も持続可能な形を維持できるように、情報発信などをしていきたいと思います。
金織:6次産業化の全てを地元で完結することはとてもハードルが高いことだと考えています。この生ピクルスや乾燥果実は、原料である野菜や果物の栽培から製造加工・販売までを全て甲良町内で完結する ことができ、一番理想的な形の商品になりました。この貴重な成功例を更に発展させるために、皆さんと連携を取りながら商品を販売していきたいと思っています。また、道の駅を核とした情報発信を行い、甲良町という地域全体を活気ある観光スポットにしていきたいですね。過疎化や高齢化など様々な問題を抱えていますが、交流人口が増えれば地域全体が活性化すると思うので、皆さんでWinWinの関係を作っていければ良いなと思っています。
――6次産業を通して、甲良町の魅力がますます多くの方に届くことをお祈りしています!