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グリーンインフラとは?

地域での取り組み事例や基本をわかりやすく解説

グリーンインフラという言葉をよく耳にするようになりました。グリーンインフラとは、自然が持つさまざまな機能や仕組みを豊かな生活空間づくりや災害への備えとして活かすという考え方や取り組みを指す言葉です。しかし、その対象となる地域は都市部から中山間地域までと非常に広く、また取り組みの内容も多彩で、具体的なイメージを掴むのは簡単ではありません。グリーンインフラとは何か、その活用にどのようなものがあるのか、社会イノベーション事業本部環境共生部の小笠原奨悟に聞きました。

INDEX

グリーンインフラとは何か ―環境と社会・経済の協働に向けて―

グリーンインフラという言葉が使われ始めたのは、2010年頃のアメリカやヨーロッパです。アメリカでは、都市部における雨水管理という視点で語られ、下水道からの越流水の軽減や雨水による汚染の削減などを目的に「レインガーデン」などが試みられるようになりました。一方、ヨーロッパでは主に、水質浄化やレクリエーションなどの生態系サービスを提供する自然環境などの戦略的なネットワークと定義されています。

アプローチの違いはあるにしても、いずれも、従来は明確に意識されることのなかった自然の持つ機能や価値を改めて見直し、それを積極的に活用するという考え方に立ったものといえます。

日本においても、戦後の経済成長や都市開発に伴い、自然と社会・経済が対立軸で語られることが多くありました。グリーンインフラは自然の持つ機能を社会・経済の発展にもつなげようとするものであり、自然と社会・経済の協働による持続可能な社会づくりに向けて欠かせない考え方です。

持続可能で魅力ある国土・地域をつくる

日本では2015年8月に閣議決定された「国土形成計画」(国土交通省)でグリーンインフラの推進が初めて打ち出され、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」とされました。その後、「環境基本計画」(環境省)や「国土強靭化基本計画」(内閣官房)など、国土・地域づくりに関するさまざまな上位計画に位置付けられ、2023年には「グリーンインフラ推進戦略2023」(国土交通省)が策定されました。

グリーンインフラが求められる背景は、大きく分けて2つあります。1つは「魅力のある都市・生活空間の形成」です。健康の増進や良好な生活・子育て環境など、人々が健康で、満足度の高い生活を送ることができる都市・生活空間へのニーズが高まっており、ウェルビーイング(Well-being)の考え方が注目されています。都市緑地などのグリーンインフラは、生活空間に魅力と潤いをもたらす重要な要素といえます。そしてもう1つは「近年の社会課題への対応」です。自然災害の激甚化・頻発化やインフラの老朽化、人口減少による低未利用地の増加など、持続可能な地域づくりにあたっての課題が顕在化しており、グリーンインフラはこれらの社会課題への解決策の一つとしても注目されています。地域の自然や土地の機能をうまく活用しながら、日常的には市民が維持管理に参加することで地域コミュニティの形成にも寄与しつつ、災害時には防災・減災機能を発揮するような、さまざまな効果を持つ取り組みとして発展させることが期待されています。

多様な取り組みを包括するグリーンインフラ

では実際、どのような取り組みがあるのか――何がグリーンインフラで、何はグリーンインフラではない、という明確な線引きがあるわけではありません。ハード・ソフトの両面から、自然環境の機能を活用しようとする幅広い取り組みがグリーンインフラとして検討され、実施されています。

図:グリーンインフラの代表的な取り組みについて

2023年には国土交通省が「グリーンインフラ実践ガイド」を公表しました。グリーンインフラの代表的な取り組みとしては次のようなものがあります。

エリア主な取り組み内容
都市部 都市公園・緑地、外構緑化、屋上・壁面緑化、街路樹、緑道、雨庭(レインガーデン)、緑溝(バイオスウェル)、生物共生型港護岸 ほか
郊外部 樹林地・里地里山の保全・活用、都市農地・コミュニティガーデン、河川の自然再生、遊水地、低未利用空間の活用 ほか
農山漁村部 森林・農地の管理・活用、管理放棄林・耕作放棄地の活用、藻場・干潟の再生 など

これらを、雨水の貯留・浸透や生物多様性の保全、にぎわいの創出などの効果をもたらす取り組みとして総合的にデザインすることが重要なポイントとなります。また、独立した取り組みではなく、地域の中でネットワークとして配置することで、よりその効果を引き出すことができるようになります。グリーンインフラは、緑・水・まちづくりなどの魅力的な地域づくりに向けた重要な要素を一体的に進めるためのキーワードにもなります。

グリーンインフラの取り組み事例

実際にどのような取り組みが行われているか、都市空間や森林・農地管理など、グリーンインフラに関わるキーワード別に見ていくと、次のようなものがあります。

都市空間

都市部では集中豪雨による内水氾濫対策として、雨庭(あめにわ)などの雨水貯留・浸透対策が進んでいます。雨庭はアメリカで進められていたレインガーデンの考え方を日本に取り入れたもので、自治体や市民団体などが関わることができるグリーンインフラとして広がりつつあります。

具体的には、公園や歩道などの公共空間や事業所などの民間の敷地において、地上に降った雨水を下水道に直接放流することなく一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間を設けるものです。水質の浄化や生物の生息・生育空間の創出などの効果も期待できるほか、庭園としてのデザインにも配慮することで、人にやすらぎをもたらす修景・緑化という価値をもたらします。例えば、京都市の事例では、道路の交差点部に雨庭を整備し、道路の舗装面に降った雨を集水する構造とするとともに、京都の庭園文化を活かした枯山水とすることで都市の景観にも配慮されています。

写真:京都市の雨庭
京都市の雨庭

都心部ではオフィスビルの植栽、道路の街路樹などの都市緑地や公園などのオープンスペースも重要なグリーンインフラの構成要素になります。再開発事業においても大規模な緑地空間を設け、都市の貴重なオープンスペースとするだけではなく雨水の貯留・浸透やクールスポットの創出、生物多様性の保全など、質の面でも自然のさまざまな機能を活用し、快適な空間を提供している例も増えています。最近では大阪駅北地区の「グラングリーン大阪」が、都市における質の高い大規模な緑地空間として注目されています。

また、都市緑地法が改正され、2024年11月から「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」の運用が開始されました。これは民間事業者等による良質な緑地の確保に向けた取り組みについて、気候変動への対策、生物多様性の確保、well-beingの向上などの「質」と緑地の「量」の観点から、国土交通大臣が評価・認定を行うというものです。本制度の運用によって、民間事業者等が行う緑地確保に対して効果的な取り組みを推進するための指針が示されるとともに、価値が可視化されることで社会・経済的な利益にもつながることが期待されています。

都市部における雨庭の整備や緑地の確保などは、いずれも限られた都市空間を有効に活用することで、魅力的で持続可能な都市づくりに貢献しようとするものであり、今後も市民団体や民間企業、行政をはじめとする関係者の知恵を集めて工夫を重ねていくことが求められています。

森林・農地管理

中山間地域や農村地域でも、森林や農地をグリーンインフラと捉え、地域を支えるインフラとして維持・活用しようとする観点から多くの取り組みが行われています。

かつては、森林や草地は燃料や食料の生産の場であり、地域の暮らしや生業に密接に結びついていました。しかし、現在は、化学燃料や化学肥料の普及などにともない暮らしとの関わりが希薄になり、利用されないまま荒廃する森林や草原が増えています。一方で、これらの自然環境が景観の形成や水循環の健全化などの観点から地域を支えていることに変わりはなく、インフラとして継続的に機能が発揮されるような取り組みが求められています。例えば、間伐などの管理が行われていない人工林は光が地表面に届きにくくなり、林床植生が衰退することなどによって、水源涵養機能や土壌を保持する力が低下すると言われています。里山林や草原なども同様に、人の手が入ることによって多様な機能を有していますが、現代の暮らしではその関わりが不足していることが課題となっています。そのため、改めて森林などの自然環境が有する機能を活用し、現代のニーズに応じた取り組みが進められています。

林野庁では森林空間の価値に注目し、「森林サービス産業」と称して環境教育や森林浴などの体験を提供する場としての活用を進めています。また、カーボンニュートラルに向けた社会的関心の高まりを背景に、森林の炭素貯留機能に注目が集まり、その吸収量をJ-クレジットなどのクレジットとして市場取引されることも増えています。

また、農地も食料の生産だけではなく、洪水の防止や生物多様性の保全などの多面的な機能を有しています。農地の管理放棄はこれらの機能の喪失につながるだけではなく、イノシシなどの野生生物の侵入やごみの不法投棄など新たな課題をもたらす可能性があります。そのため、遊休農地を地域のグリーンインフラとして捉えなおし、食料の生産だけに限定しない機能を引き出すことが必要です。千葉県の印旛沼流域では、遊休農地に湿地を再生し、水質の浄化や生物多様性の保全などの機能を発揮させようとする取り組みが進んでおり、流域全体に広がりつつあります。

写真:遊休農地における湿地の再生
遊休農地における湿地の再生

このように、森林や農地は地域を支える重要なグリーンインフラです。ただし、グリーンインフラとして多様な機能を活用するには、その公益性から森林や農地の所有者だけに負担をかけることは適切ではないと考えられます。そのため、地域の資源として見直し、公的な支援も含めてさまざまな関係者が関わる取り組みとして展開することが求められます。

流域治水

集中豪雨などによる洪水・浸水被害が頻発していることから、上流から下流まで、住民、企業、行政の流域のあらゆる関係者で水害対策を推進する「流域治水」の取り組みが進んでいます。2021年には「流域治水関連法」も施行されました。流域治水の推進にあたっては、災害リスクの低減にも寄与する生態系を保全・再生し、生態系ネットワークの形成を図るという考え方も位置付けられており、グリーンインフラが総合的な施策を推進するキーワードとなっています。

事例の一つとして、遊水地があります。遊水地とは、大雨などで河川の水が増えたときに、その一部を貯めることで下流に流れる水の量を減らすための施設です。洪水の時にその機能が発揮されるだけではなく、生物の生息・生育の場としても貴重な空間となっていることから、環境教育の場や観光拠点としての利用を進めようとする取り組みが行われています。北海道の舞鶴遊水地では、遊水地を新たなグリーンインフラと位置付け、地域の関係者による協議会において活用方法などが検討されています。実際にタンチョウの飛来・営巣が確認されており、遊水地の環境を守りながら、地域の拠点として活用しようとしています。また、静岡県の麻機遊水地では、麻機遊水地保全活用推進協議会が設立され、周辺の福祉医療施設や企業などと連携しながら、農業や環境教育の場としての利用が行われています。

写真:北海道の舞鶴遊水地
舞鶴遊水地

さらに、流域に目を向けると、水田で一時的に水を貯める「田んぼダム」や森林による雨水の浸透・保水機能を高めるための整備の実施なども流域治水の取り組みに含まれており、これらは自然環境の機能を活用しようとするものであると言えます。
また、環境省は2023年に「持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の手引き」を公表し、防災・減災と生物多様性の保全の両立に貢献する取り組みを進めています。ネイチャーポジティブに向けた社会的な関心が高まる中で、生物多様性の保全・再生の観点からもグリーンインフラの実装が期待されます。

パシフィックコンサルタンツの取り組み

グリーンインフラは人口減少や気候変動などの社会課題の変化を踏まえたこれからの国土管理や地域づくりを考える上での重要なキーワードです。「世界中の誰もが脅かされない、格差がない豊かなくらしを、実現すること」そして「すべての生命の源である美しい地球、その環境を守り、未来へ引継ぐこと」をビジョンとして掲げるパシフィックコンサルタンツは、その実現のためにもグリーンインフラの推進が重要であると考え、地域実装を進めるためにさまざまな取り組みを行っています。
グリーンインフラを地域で進めるためには、まずは総合的な戦略をつくることが重要であり、そのために地域の資源や課題を認識することが必要です。また、地域においてグリーンインフラとしてのポテンシャルを持った資源がどこにあるのか、地図として可視化することも有効です。パシフィックコンサルタンツでは、GIS(地理情報システム)ツールなども活用しながら、地図上にさまざまな情報を重ね合わせて可視化し、その情報をもとに緑の基本計画や生物多様性地域戦略などの自治体の計画や企業の戦略の策定支援を進めています。

また、幅広い取り組みが対象となるグリーンインフラの性質上、自治体における取り組みは、1つの部局にとどまるものではなく、環境、公園・緑地、道路、上下水道、教育、農林など多数の部署の連携が欠かせません。さらに、地域の企業や市民と連携することで、より広がりのある取り組みとすることができます。そのため、庁内の横連携をスムーズにすることや地域の企業や市民とのコミュニケーションを図ることを目的に、勉強会や意見交換会の開催支援も行っています。このように、私たちコンサルタントが外部から関わることで、グリーンインフラの実装に向けて貢献していきます。

さらに、グリーンインフラの地域実装の推進のためには、幅広い分野の専門性に基づく支援が必要です。私たちは国土交通省や環境省のガイドライン・手引きなどの作成支援を行ってきました。また、総合地球環境学研究所Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction=生態系を活用した防災・減災)プロジェクトやSIP第3期「魅力的な国土・都市・地域づくりを評価するグリーンインフラに関する省庁連携基盤」など、グリーンインフラに関する研究プロジェクトにも研究員や研究機関として参画しています。これらの経験を通じて得られたグリーンインフラに関する基本的な考え方や地域での先進的な事例、地域実装のために必要な技術などの知識を活かしながら、自治体や企業におけるグリーンインフラの実装に向けた支援を行っていきたいと考えています。

グリーンインフラは自然環境の多様な機能を積極的に活用しようとする考え方であり、自然環境を資源として捉え、その特徴や留意点を考慮した幅広い活用を進めることが求められます。また、最初の構想から、グリーンインフラをいかに行政の計画に乗せていくのか、企業経営のなかに活かしていくのか、地域のニーズをどう反映させるのか、その総合的なアプローチが必要であると同時に、技術的な検討も欠かせません。パシフィックコンサルタンツならではの総合力と統合力、技術力が大きな役割を果たすことができると考えています。

小笠原 奨悟

OGASAWARA Shogo

社会イノベーション事業本部
環境共生部 自然資本マネジメント室

2010年入社。環境アセスメントや河川環境分野の業務経験を経て、近年はグリーンインフラや地域循環共生圏等をキーワードに、国土交通省、環境省などの調査研究・政策立案支援や自治体の行政計画策定、地域実装の伴走支援などに従事。国土交通省グリーンインフラ官民連携プラットフォーム広報・企画部会幹事、日本生態学会生態系管理専門委員会。技術士(環境部門、建設部門)。

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