2018年に高松空港が民営化されてはや5年。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、全国の観光関係者は大きな影響を受けました。コロナ禍前後で観光需要やそれを受け入れる企業・地域はどう変わり、また、どのような将来像を描き、目指していけばよいのでしょうか。
今回、瀬戸内・山陰の地方創生事業に長年携わる株式会社 地域ソリューションパートナーズの代表取締役社長・前田浩輝さんと、コロナ禍でいち早くオンラインバスツアーを実施するなど、様々な取り組みを進めている琴平バス株式会社の代表取締役社長・楠木泰二朗さん、そして、高松空港株式会社の事業運営に関わっている当社サービスプロバイダー事業部の田中庸介の3名に話を伺いました。
ファシリテーターは本サイト運営事務局が担当。
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コロナ禍の前後で変化は?
――新型コロナウイルス感染症の拡大によって観光産業は大打撃を受けましたが、その前後でどのように変わりましたか?
楠木:香川県でバスやタクシー、旅行事業を手掛けていますが、コロナ禍で業績が大幅にダウンしました。しかし、それを機にオンラインバスツアーを新たに始めました。また、自分自身が全国のゲストハウスを巡り、オーナーやゲストと仲良くなり、その人に会うために再訪するという楽しさに気付き、宿泊業を始めるきっかけにもなりました。2023年1月にこの対談の会場である「Kotori Coworking & Hostel 高松」をオープンさせ、今は琴平での開業に向け準備しています。
前田:観光による地域活性化を目指して、2017年より中国運輸局やせとうちDMOのインバウンドコンテンツ開発事業を担当し、欧米・オーストラリア向けに100以上の旅行商品を創り出しました。コロナ禍によりインバウンド事業をストップせざるをえなかった事業者も多くおられましたが、すぐに切り替えて国内観光向けに販路を広げたり、インバウンド観光がいつか戻ると信じて対応強化や商品磨き上げなどの準備を進めていた事業者が、現在着実に売り上げを伸ばしています。
故にコロナ禍後の経済の立て直しはインバウンドからだと思っています。今は観光がガラッと変わる過渡期ではないかと感じています。
――インバウンドの影響は大きいようですね。かつて米国メディアのニューヨーク・タイムズで「2019年行くべきデスティネーション」の第7位に「Setouchi Islands」が日本で唯一選出され、また「Lonely Planet's Best in Travel2022」地域部門でも第6位となり瀬戸内が「世界ブランド」になりつつあると思います。日本の観光は今度どうなっていくのでしょうか?
前田:コロナ禍後もやはり日本は人気です。2024年にはインバウンドが完全に戻るのではないかといわれていますし、
2030年頃までには、中東やインドの方々が更に来日するはずです。また、欧米の旅行者は、「職人さんがどんな想いで作っているか」にふれられる旅など、オーセンティックなものの人気が高まっています。観光地以外の田舎でも、そこに行きたくなる価値を自治体と連携して創ることが大切ですね。
楠木:私も日本のローカルの海外需要を感じていますが、総花的ではなく興味がある人に強く刺さる、例えば讃岐うどんという個性的な食文化など、地域独自の魅力を尖らせて訴求していく必要があると感じています。
田中:当社が事業運営に参画している高松空港では、コロナ禍前、ビジネスの方に多く利用いただいていました。コロナ禍を機に、ビジネス出張の際に、地域の魅力を感じてもらうことにより、次回は観光目的で家族と一緒に来訪してもらえる可能性をとても強く感じています。
新たな観光ムーブメントづくりのキーワードは、「人とのつながり」
――新しい観光需要を生み出すためには、どうすればよいでしょうか。
楠木:コロナ禍を経て、旅する意味や意義をこれまで以上に考えるようになるのではないかと思います。例えば、ただ観光地に訪れるのではなく、第二のふるさとの様に、また会いたいと思える人々がいる地域と巡り合えるような旅の需要が高くなるのではないかと考え、このような体験をするためには、最低2泊、1週間以上の滞在型観光やワーケーションが増えると思います。また地域の人と繋がるきっかけとして、非観光産業のお店が実施するワークショップや体験コンテンツは有効な手段だと思っています。
前田:私は、イギリス製の折りたたみ自転車「BROMPTON(ブロンプトン)」を活用したポタリングツアーにも関わっています。ハードな行程の自転車旅も引き続き人気ですが、立ち寄った先の人々と交流し、食や風土など「ありのままの暮らし」を体感したい人が増えており、私も、次の観光の主流は、「人との交流」ではないかと感じています。先日の徳島のツアーでは、ガイドの初恋の方の家をみんなで訪れ、とても盛り上がりました。そういう意味では、観光ガイドも地元の人に対して積極的に話しかけなど、ストーリーテラーのような役割が求められていると思います。
――初恋の人の家...盛り上がりそうですね(笑)。今後は、地域の方と交流できるサイクリングツアーも、需要が高まる気がします。
田中:当社では、まさに前田さん、楠木さんと一緒に、社内企画としてコロナ禍前に立案したワンランク上の「グランクリング(グラマラスなサイクリング)」を新たな旅行商品として企画し、ファムツアー(※1)を重ね、実際に商品として販売してもらうことができました。当初はインバウンド向け商品として想定していましたが、途中コロナ禍になってしまい、やむを得ずターゲットを国内向けに変更しました。現在の商品内容は、地域の方との交流が十分とは言えないですが、人との交流を意識し、ブラッシュアップできれば、十分に売れる商品になると考えています。
あらゆる視点から物事を捉え、地域活性に繋げる
――高松・瀬戸内の魅力ある将来像をどのようにお考えですか?
楠木:約3,500世帯の琴平町では、地元の人と外から来た人がうまく混ざり合い、地域としての魅力が増していると感じます。排他的と捉えられることがあった町ですが、コロナ禍により、移住者や若い方のお店が増え、新旧住民が「コロナを乗り越える」という共通の目標が生まれたことをきっかけに、地域内での連携が生まれたことで、新しい視点を柔軟に取り入れるようになりました。
自分たちが住んで楽しいと思える地域だからこそ、まちのファン、リピーターを作っていけるのではないでしょうか。
――元からの住民が新たなものを受け入れるようになった、と。
楠木:例えば、こんぴらさんの御縁日である毎月十日に、まちの各店が工夫を凝らしたその日限定メニューやサービスを提供して盛り上げる催し「こんぴら十帖」ほか、民間創意による新たなプロジェクトが多数生まれています。
――その地域にふさわしい仕組みが生まれ、その後もうまく回りそうです。しかしながら、魅力ある地域にするためには課題もあるかと思いますが、どのようなものでしょうか?
前田:瀬戸内エリアにはありのままの良さが沢山あるので、それをうまくパッケージして伝え、+ハンドリングできるプレーヤーが必要だと思っています。ツアーを作る際にオンライン会議で済ますのではなく、現地の方と交流しながら、その地域の魅力を掘り起こして作るなど、肌感覚で現場の魅力を掴める人材がほしいですね。
田中:つい最近、海外の方から「高松空港から直島へどうやったらスムーズに行けるか」と連絡があり、私が高松空港出向時にお世話になった方に直接連絡し、タクシーを手配してもらい海外の方から丁寧なお礼をいただきました。このようなケースにおいて、現地手配者が少ないというのも受け入れ課題の一つで、地域の方との連携、地道な取り組みが必要と感じました。
――なるほど、課題は人材不足。そしてインフラにおける観光客目線の受け入れ課題の解決も欠かせない、ということですね。今後、そのインフラを手掛ける私たちパシフィックコンサルタンツにどのようなことを期待されますか?
前田:観光客を増やすには、魅力的な宿泊場所、分かりやすい現地へのアクセス、魅力あるコンテンツとガイドの3つの柱を充実させることが重要です。パシフィックコンサルタンツさんには空港・JR・バス・船と利便性を更に向上させつつ、地元企業など横のつながりも密にし、多様なモビリティを発案して欲しいですね。
楠木:例えば観光客を受け入れるにあたって、「川をもっときれいにしたい」という課題があったとします。でも地域内では昔ながらの人海戦術以外に解決手段がわからなかったりします。そんな場合に地域に新しい視点での解決策をアドバイス頂くなど期待しています。
田中:当社は、社会インフラ各分野の技術者が多く在籍していることが強みです。また行政に対して、一緒にまちの魅力化に向けた提案をすることができます。パシフィックコンサルタンツが関わっている高松空港はあくまでも地域の玄関口と捉えています。いかに、周辺に魅力的なまち、人、資源を抱えるかが重要です。コロナ禍が明けた今、高松・瀬戸内の地域活性化に向けたリスタートと思っています。「共創」できるパートナーとして、どうぞよろしくお願い致します!
――ありがとうございます。高松・瀬戸内が更に魅力的な観光地として、これからどう変わっていくのか、楽しみですね!
(※1)ファムツアー:ファムトリップ・FAMトリップ(Familiarization Trip)ともいわれ、モニターツアーの一種。国や自治体等が観光誘致を目的に、ターゲットとする国の旅行会社やメディア、インフルエンサーなどに現地視察してもらうツアーのこと。