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実効性のある災害廃棄物処理計画策定のために

災害廃棄物処理の現状とアップデートのポイント

東日本大震災をきっかけに策定が義務づけられた「災害廃棄物処理計画」。市区町村の約80%、都道府県の100%で策定済みといわれていますが、処理計画をより実効性の高いものにするためには普段からの見直しが欠かせません。アップデートのポイントは何か、資源循環マネジメント部 地域環境整備室のチーフコンサルタントの上田淳也と同室の技師 野末浩佑に話を聞きました。

INDEX

災害発生時の重要なテーマである災害廃棄物処理

今後発生が予測されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震等の大規模災害発生時には大量の災害廃棄物の発生が予想され、その適正な処理のための計画立案は迅速な復旧・復興の要と考えられています。

東日本大震災を機に、国も災害廃棄物処理に関する法律を改定、市区町村やそれを包括する各都道府県においては、各地域の特性に合わせた災害廃棄物処理計画の策定が義務づけられました。環境省の支援もあり、市区町村では約80%、都道府県では100%が策定を終えています。改めて言うまでもなく、一気に大量に発生する災害廃棄物を適正かつ円滑・迅速に処理しなければ、復旧・復興の大きな妨げになるだけでなく、衛生環境の悪化や最悪の場合は伝染病の蔓延といった事態も引き起こしかねません。また被災家屋の片付けが進まないことが生活環境を悪化させ、災害関連死につながってしまうという懸念もあります。発災直後の人命救助が第一であることはいうまでもありませんが、災害廃棄物の的確な処理も災害発生時に取り組まなければならない極めて重要なテーマです。

「想定外」の発生で見直しが求められた処理計画

しかし、いつどこでどのような災害が発生するかを事前に見通すことは困難であり、完璧な災害廃棄物処理計画を事前に準備することは不可能です。災害発生のたびに浮かび上がる廃棄物処理に関する課題を見極め、その都度処理計画をアップデートしていくことが、より実効性のある災害廃棄物処理計画につながります。

図:災害廃棄物処理計画の主な見直しの変遷
災害廃棄物処理計画の主な見直しの変遷

例えば1995年の阪神淡路大震災を受けて自主的に災害廃棄物処理計画を策定した自治体もありました。当時は津波被害の想定がなされていなかったために、計画の対象となる災害廃棄物は地震によるものがほとんどでした。ところが東日本大震災では広範囲に津波被害が及び、「海水に浸かった大量の災害廃棄物」という想定外が発生しました。

廃棄物に含まれる塩分濃度が高い場合、焼却処理によるダイオキシン類の発生や焼却施設の腐食、木質チップの利用用途の制限といったことが起こります。廃棄物から塩分をいかに除去するのかという検討が必要であることが新たにわかりました。これが計画に含まれていなければ、事実上、廃棄物処理ができないということになってしまいます。

また、近年は台風や集中豪雨による洪水被害が増えていますが、堤防の決壊などを伴う場合は、川底に溜まっていた泥が一緒に流れ出し、泥まみれの廃棄物や土砂が混合した廃棄物が出ます。土砂を含むままでは焼却時に焼却残渣が増加することやリサイクルができないので土砂の分離や泥を落とす作業が不可欠となり、これをどこでどのように行うのか、処理計画で想定しておくことが望まれます。

また、水害の場合は仮置場の開設を急がなければなりません。地震被害の場合は、しばらくは余震への警戒もあり、多くの人が避難所で数日から1週間程度過ごすことになります。従って仮置場の設置にも、多少の時間的な猶予がありました。ところが、水害の場合は翌日には水が引いている場合もあることから、廃棄物の片付けはすぐにスタートします。仮置場の設置ができていなければごみを運び出すことができず片付けが始められません。

図:災害の種類による仮置場の必要時期
災害の種類による仮置場の必要時期

令和6年能登半島地震で明らかになった災害廃棄物処理の課題

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震でも、災害廃棄物に関する多くの「想定外」がありました。

生活ごみや避難所ごみ、し尿の処理の停滞

従来の災害廃棄物処理計画ではいわば補足的にしか言及されていなかった通常の生活ごみ、避難所ごみ、およびし尿への対応です。令和6年能登半島地震では至る所で道路が寸断され、また上下水道設備にも大きな被害が出たことから、公設の避難所に加えて多くの自主避難所が設けられ、また滞在も長期化しました。さらに、多くのごみ処理施設が被災し、運転が止まってしまったため、生活ごみや避難所ごみ、し尿の処理に大きな支障が出ました。

所有者不明の空き家を含む膨大な公費解体

空き家の問題は平成28年熊本地震(2016年)や平成30年7月豪雨(西日本豪雨災害・2018年)でも問題となりましたが、令和6年能登半島地震でも大きな復旧の妨げとなる深刻な問題として改めてクローズアップされました。全半壊した建物の解体が進まず「半年経っても被災時のまま」といった報道もされましたが、背景には、公費解体の対象建物が膨大な棟数のためにその審査等に時間を要したことや、解体に必要な重機や資機材、人員とその宿泊先等の確保に苦労が伴ったことに加え、空き家のために所有者が特定できないという問題もありました。全半壊しているといっても、自治体が勝手に処分することはできず、解体対象の家屋の手前にそのような空き家があると、その奥の家屋も解体することができなくなります。

災害ボランティアの受け入れへの支障

災害ボランティアとの連携に遅れが生じたことも、令和6年能登半島地震の廃棄物処理で浮かび上がった課題です。被災した住宅の片付けに災害ボランティアの存在は欠かせません。特に地方では高齢者の1人暮らしも多く、多くの人の支援がなければ片付けには手を付けることもできません。ところが交通事情が非常に悪く、また、水や食料、宿泊場所の確保もできないことから、被災当初は域外からの災害ボランティアは遠慮してもらうという方針がとられ、被災住宅の片付けが進まない事態が生じました。

災害廃棄物処理計画のアップデートのポイント

災害の発生により、いつ自分たちが被災者になるか予想することはできません。だからこそ、他自治体で災害が起きてしまった際には、自組織の計画で対応が可能なのか確認する、策定していない自治体は改めて必要性を理解し、策定に取り組むように庁内で重要性を共有することが大切です。マンパワーが不足する自治体では庁内の調整だけでは策定に取り組めない場合がほとんどと考えられるため、首長のリーダーシップの発揮を促したり、環境省地方環境事務所への相談も重要です。

具体的には次のようなことがアップデートのポイントです。

いつ誰がアップデートしたのか、担当部署は内容を理解しているか

そもそもアップデートが行われているかどうかの確認が必要です。自治体では担当者が定期的に異動し、新旧担当者の引き継ぎも日常業務が最優先になるため「災害廃棄物処理計画」についての引き継ぎは後回しになりがちです。ある自治体では、処理計画がつくられているにもかかわらず、担当部署の職員がその存在を知らなかった、ということが起きていました。

また、災害廃棄物処理は庁内の各部署にまたがる業務です。処理計画でも各部署(防災課、環境課、土木課、営繕課など)との連携事項を記載する場合がほとんどですが、計画上、各部署の名称の記載はあるものの、実際に各部署に周知されていないというケースもあります。各部署がやるべきことを理解しているか、平時からの確認が必要です。

実効性のある災害廃棄物処理計画であるかどうか、実際に発生した災害廃棄物処理からの教訓のフィードバックがなされているか

  • 想定する災害廃棄物の種類と量
    災害の種類によって処理が必要となる廃棄物の種類や処理方法は変わります。従来の計画は地震を前提にしたものがほとんどですが、地域の特性に合わせて津波や河川の氾濫による被害発生時の計画が必要です。
  • 十分な面積の仮置場の確保、その管理・運営体制の構築
    仮置場の設置は災害廃棄物処理計画で最も重要なものの1つです。予定地の面積が十分かどうか(特に現場での分別・選別などのための十分なスペースが確保されているかどうか)、その管理・運営を誰がどのような体制の下で進めるのか、といったことが明確であるかどうかが重要です。
    災害現場では応急仮設住宅の建設用地、復旧のための重機や資材置場、臨時のヘリポート、災害派遣部隊の宿営地など、土地利用に関してさまざまなニーズが発生します。しかも災害廃棄物置場は土壌汚染などを引き起こす可能性もゼロとはいえず、民有地は使いにくいという事情もあります。限られた用地を災害復旧関連部署で取り合うことにもなりかねないことからその調整機能が必要です。
  • 生活ごみ、避難所ごみ、し尿処理の対策
    従来の災害廃棄物処理計画は、こうしたごみの処理については詳細な検討がなく、計画書の章立てでも後ろの方にあります。しかし、ここが破綻するとなかなか日常生活が取り戻せません。通常のごみ処理をいかに継続するか、広域の応援も含めて検討しておく必要があります。
  • 災害ボランティアとの連携、指示系統、指示内容の明確化
    災害ボランティアの存在は住宅の片付けには欠かせないものになっています。しかし、災害廃棄物処理計画の中においては、災害ボランティアに対して誰が何をお伝えし、どのように活動してもらうかというルール作りが不十分であることが少なくありません。
  • 応援要請の仕方の明確化
    都道府県のほとんどが災害時の応援協定などを、民間の建設・土木事業者団体や産業廃棄物事業者団体、重機の製造会社やレンタル事業者の業界団体や個々の事業会社などと結んでいます。ところが自治体の担当者がその存在を知らなかったり、知っていても自分たちが直接結んでいるものではないため、使えないと思い込んでいたという例があります。都道府県との協定は傘下の自治体が都道府県へ要請すれば使えるので、災害廃棄物処理計画には都道府県が結んでいる応援協定の内容と、要請する場合の有効な連絡先や電話番号などを明記しておくことが必要です。

パシフィックコンサルタンツの取り組み

これまでパシフィックコンサルタンツは、災害廃棄物処理計画について環境省地方環境事務所や自治体における策定支援業務に数多く携わってきました。技術者一人ひとりがD.Waste-Net(※1)として災害現場での支援も実施していることから、実際の災害廃棄物処理現場で何が問題となるのかに関して知見を有しており、それを処理計画にフィードバックすることで、各地域の実情に応じた実効性の高い計画づくりを支援しています。

また、環境省の業務として「災害廃棄物対策指針」の策定・改定や「大規模災害発生時における災害廃棄物対策行動指針」の策定にも従事してきたことから、求められる処理計画の本旨に則った策定支援を進めることができます。
具体的な策定支援においても、コンサルタントが案を作成して自治体と協議しながら作り上げる通常の支援業務だけでなく、これまでの災害廃棄物処理の経験を凝縮した計画策定のためのテキストをベースに、まず自治体職員の方に自治体特有の事情を踏まえた検討を進めてもらい、それを私たちが照査して自治体へフィーバックしながらブラッシュアップしていくという対話型の計画策定支援も行っています。計画策定を全面的に受託するのではなく、あくまでも自治体職員の方に策定していただく、私たちはそれを支援するというスタンスで臨むことが自治体の災害対応力向上につながると考えているからです。

また災害廃棄物処理計画の策定以外でも、災害対応力向上のための取り組みを行っています。三重県では、災害廃棄物処理についての図上演習や、災害廃棄物処理の要となる仮置場の設置や運営に係る実地訓練業務も行っており、「課題が浮き彫りになるので非常に参考になる」と参加自治体から好評をいただいています。

写真:現場にトラックで災害廃棄物を運び込む実地訓練業務①(三重県)

写真:現場にトラックで災害廃棄物を運び込む実地訓練業務②(三重県)

また最近では国土交通省が実施しているPLATEAU(プラトー)(※2)の実証実験を担いました。災害廃棄物発生量のシミュレーションと、その算定結果の活用による仮置場ごとの集積範囲の検討や、用地が不足するエリアにおける対策案の検討も進め、災害廃棄物処理計画の高度化を推進するデジタルツールの開発も積極的に担っています。

災害廃棄物処理計画の策定は、仮置場の開設や管理・運営、災害廃棄物の収集、中間処理や再資源化、最終処分に関する知見が求められ、処理にかかわるさまざまな部門(防災、土木・建築、道路、港湾、環境など)に関する専門知識も必要となり、コンサルタントにも総合力が求められます。パシフィックコンサルタンツの専門性と総合力を活かし、きめ細かな災害廃棄物処理計画の策定支援を通して、誰もが安心して平和に暮らせる社会の実現に貢献したいと思っています。

※1 D.Waste-Net:環境省が事務局となって運営する災害廃棄物処理支援ネットワークの略称。災害廃棄物処理の専門的な知見を揺する研究・専門機関のメンバーが環境省からの協力要請に基づき、災害の種類・規模等に応じて、災害廃棄物の処理が適正かつ円滑・迅速に行われるよう、「発災時」と「平時」の各局面においてさまざまな支援を行う。

※2 Project PLATEAU(プラトー):国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト。防災分野における実証実験として、建物ごとの属性(建築年・建物構造・建物階数・延床面積等)に想定震度などの被害要因の各種データを重ね合わせることで指定した任意範囲での災害廃棄物発生量のシミュレーションを行い、仮置場ごとの集積範囲の検討や、用地が不足するエリアにおける対策案の検討を進め、災害廃棄物処理計画の高度化を担った。

上田 淳也

UEDA Junya

国土基盤事業本部
資源循環マネジメント部 地域環境整備室
チーフコンサルタント

2005年入社。東日本大震災では、岩手県釜石市において災害廃棄物処理事業監理業務に従事。その後、国の災害廃棄物対策に係る政策検討や災害廃棄物対策行動計画の策定支援をはじめ、自治体の災害廃棄物処理計画及びマニュアルの策定や、図上演習・仮置場の実地訓練の企画・実施等を支援。現在は、令和6年能登半島地震の被災地である石川県七尾市の災害廃棄物処理事業の進捗管理等に従事。

野末 浩佑

NOZUE Kosuke

国土基盤事業本部
資源循環マネジメント部 地域環境整備室

2021年入社。D.Waste-Net派遣を通じた被災地支援の経験を強みに、自治体職員と対話しながら二人三脚で災害廃棄物処理計画を作り上げる業務スタイルを得意とする。またArcGISを活用した情報伝達訓練プログラムの構築など、災害廃棄物分野へのDX技術の導入支援や技術開発にも従事。

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