本文へ移動
サイトメニューへ移動
SCROLL

三条市包括的民間委託プロジェクト

コンサルタントとして初めて民間側JVに加わる

インフラ維持管理に関する包括的民間委託を積極的に展開している三条市は2024年春から第Ⅲ期(期間5カ年)の業務委託をスタートさせた。これに先立つ第Ⅱ期事業(2019.4-2024.3)からパシフィックコンサルタンツは包括委託を受ける共同企業体(ジョイントベンチャー:JV)の一員として参加している。建設コンサルタントとしては全国初だ。地域の建設会社などが主体となるJVに参加したのはなぜなのか、どのような成果が生まれているのか。取り組みを中心で担う交通基盤事業本部 インフラマネジメント部 空間創造室 室長の稲光信隆と同室の中井諒、松岡昌宏の3人が語る。

INDEX

社会インフラの円滑な維持管理は喫緊の課題

三条市は新潟県のほぼ中央に位置する人口9万1000人(2024年11月末時点)のまちだ。金属加工を中心としたものづくりで知られる。市の中心部には、東から西へと流れ下る一級河川の五十嵐川があり、五十嵐川は市の西部で北から流れてくる信濃川と合流する。ゆったりと蛇行しながら流れる五十嵐川は市民生活に潤いをもたらす一方で、深刻な洪水被害も引き起こしてきた。特に2004年の「7.13水害」や2011年の「7.29水害」が甚大な被害をもたらしたこともあり、市は河川や橋梁、道路などの社会インフラの維持管理への取り組みを強めてきた。ところが、老朽化が進み、改修や更新の必要は年々高まる一方でありながら、担い手も予算も不足している。市は危機感を強めていた。

「多くの地方都市に共通の課題ですが、民生関連費が増大する中で土木費は縮減の方向に向かわざるを得ず、予算だけでなく土木関係の職員も現業職を含めて削減されています。さらに工事にあたる民間企業の建設技術者も慢性的な人手不足で苦しんでいる状況です。私たちは2000年代の初め頃から民間資金を活用した公共施設の整備事業(PFI)を始めとする官民連携(PPP)による行政経営の効率化や改善の提案をしてきました。民間の資金やノウハウを積極的に取り入れていかなければ社会インフラの健全な維持は非常に難しい。国が始めた『先導的官民連携補助事業』を使ってPPPを活かしたインフラ維持管理の仕組みを検討することになったのは2015年のことです」(稲光)

それがパシフィックコンサルタンツによる三条市のインフラ維持管理に関する支援のきっかけとなった。両者は2015年、2016年と調査・検討を重ね、三条市は2017年4月から実施期間を2年間とした「包括的維持管理業務委託 第Ⅰ期事業」をスタートさせた。

第Ⅱ期事業のJVにコンサルタントとして参加

三条市の包括的維持管理事業は、試行錯誤を重ねながらも、市と委託を受けたJVのそれぞれの真摯な取り組みに支えられて成果を挙げ、継続が決定した。市は第Ⅰ期事業の実施状況の点検・評価と今後の委託内容の改善検討を実施、業務範囲を拡大するかたちで第Ⅱ期事業の推進を決定し、委託業者(JV)をプロポーザル方式で公募した。第Ⅰ期を担ったJVが手を挙げたが、そこに新たに加わったのがパシフィックコンサルタンツだった。実現すれば包括委託を受けるJVに建設コンサルタントが入る全国初のケースとなる。2015年に入社し、すぐに包括的民間委託の事業検討チームに加わった中井が経緯を振り返る。

「第Ⅰ期事業はそもそも私たちが仕組みづくりに関わったものですから、事業に参画するという選択肢はありませんでした。しかし、2年間、事業推進を外から見るなかで、私たちがJVに加われば、包括的民間委託をさらに有効に機能させることができるのではないかと考えました」

なぜそう思ったのか、中井が続ける。

「理由は2つあります。1つは維持管理業務の高度化、効率化のために私たちが持っている技術やシステムが役に立つからです。特に三条市の第Ⅱ期では新たに橋梁の点検・補修業務が加わることになっていました。橋梁の保守は道路に比べて専門性の高い技術やノウハウを必要とします。またその他のインフラの点検や補修方針の検討、工事についても、DX導入を進めればより効率化することができます。それはJV各社の収益の向上につながり、包括的民間委託事業を安定させることにもつながる。私たちの技術をJV各社に移転していけば、将来は地元企業がその業務を担い、業績向上につなげることもできます」

project-story-sanjo_img03.jpg

もう1つの参画理由は「コミュニケーション支援」だという。

「自治体の財政は厳しく、JVに示される維持管理費用の大枠は厳しいものがあります。JVとしては『それでは足りない』と思うこともあるはずですが、どこがどう足りないのか、どういうやり方をすれば費用削減ができるのか、といったことをデータを元に示すことが得意ではありません。また自治体側も、JVの参加企業などとは長年の付き合いがあるために『大変だと思うけれどなんとかやってみてくれませんか』という要請になりがちです。こういう場合に私たちコンサルタントが間に入れば、これだけ不具合箇所があって、補修にはこれだけの費用がかかるから、年間ではこれくらいの予算が必要ということをデータに基づいて示すことができます。また、DX化を含め、点検・補修に関する新たな取り組みについてもアイデアをもっており、初期費用はこれだけかかるが、中長期で見ればこれだけのコスト削減につながる、といったことを具体的に提案することもできます」

稲光が補足する。

「JVの判断でできる工事の上限が50万円から130万円に拡大されたとはいえ、その金額内でできるのは簡易的な対応でしかありません。一時の苦情を減らすためならそれでいいのかもしれませんが、それにどんな意味があるのか。長い目で市のインフラを守っていくとするなら、今ここでしっかり根本要因まで掘り返して直しましょうという提案が必要です。実はその必要性は地元の建設業の方もわかっているのですが、それを説明し納得させることは難しい。しかし、コンサルタントであれば、客観的なデータをもって提案ができます。特に三条市のように、実施判断を性能規定に委ねるなら私たちのようなコンサルタントの存在が必要と考えます。包括的民間委託は地域をよく知り細やかな対応ができる地元の企業が主役となる取り組みです。しかし、技術や交渉、全体業務マネジメントのサポート役として建設コンサルタントも重要な役割を担える存在であり、それがJVの業務の質を高め、官民双方にとって良い結果を生み出すことにつながります」

項目

嵐北地区

下田地区

業務内容

1)計画準備業務 2)全体マネジメント業務 3)窓口業務 4)巡回業務 5)道路維持管理業務(橋梁定期点検,補修方法検討,橋梁補修含む) 6)公園等維持管理業務 7)水路等維持管理業務 8)引継業務

実施判断

要求水準書に基づき受託者が判断(1 件 130 万円未満の対応)

期 間

5年間(2019年 4 月 1 日~2024年 3 月 31 日)

対象施設

道路(335.7 km),橋梁(218 橋),公園(71 箇所), 水路など

道路(239.5 km),橋梁(157 橋),公園(11 箇所) など

受託者

外山・久保・マルモ・イグリ・山田・向陽園・パシフィックコンサルタンツ共同企業体

下田建設業共同企業体

三条市における包括的民間委託(第Ⅱ期)の業務内容

検討項目

改善検討結果

対象業務規模の拡大

業務の効率性および適切性を考慮し,50 万円以上130 万円未満 / 件を対象業務に含める。

対象業務の追加

点検業務(橋梁・消雪パイプ)を追加することで,更なる導入効果の発現を促進

業務エリアの拡大・追加

A. 嵐北地区(須頃・大島を除く)を拡大 B. 下田地区を新規追加

契約期間の延長

契約期間を 2 年間から 5 年間に延長 (橋梁定期点検 1 巡分)

Ⅱ期目業務における業務範囲の拡大

JVの一員としてさまざまな支援を実施

2019年春、新たにパシフィックコンサルタンツを加えたJVはプロポーザルを経て第Ⅱ期の包括民間委託を受託し、早速、さまざまな取り組みに着手した。パシフィックコンサルタンツがJVにいればこそという取り組みも始まっている。中井がその1つを教えてくれた。

ウォーターカッターの取り付けを行う

ウォーターカッターの取り付けを行う

「第Ⅱ期に新たに加わった橋梁点検業務ですが、回ってみると状態の悪い橋がたくさんあることがわかりました。130万円で直せる範囲は限られていますが、市民に対して確実に安全な状態を提供しなければなりません。そこで当社がメーカーと共同開発した『ウォーターカッター』という水切材を、建造が古く、下に水が回っている痕跡のある橋梁に取り付けることにしました。悪くなっているところに水が回り込まないようにすることができるので延命が図れます。包括的民間委託で常にパトロールによる監視が行われるので、それとセットであればこうした暫定措置も有効です。実際、多くの橋梁に取り付けました。また、橋梁の点検のノウハウなどについても当社の橋梁専門の技術者が講師を務めたり、技術を習得したいという希望者を募って現場で一緒に点検をしながら積極的に技術移転を進めました」

点検に関する技術移転を進める

点検に関する技術移転を進める

技術面でのサポートだけでなく、JV内での業務計画づくりや市との協議でもパシフィックコンサルタンツがJVに加わったことでより専門性の高い検討や全体マネジメントができるようになったという。入社間もなくからJVの一員として活動している松岡が語る。

「市とJVの定例会議に参加していますが、例えば市側から、道路巡回について、全部の道路が確実に網羅できていますかとか、こういうデータは取れませんか、といった質問や要望がでることがあります。従来型の巡回ではそういう詳細な管理はできないと思いますが、私たちが加わっているので、こういう方法で網羅しているとか、こうすればデータが取れる、といった提案ができます。JVとしても全体マネジメント支援の立場で私たちの存在は価値が大きいと思いますし、また、市も要望が出しやすいと思います」

「さまざまな点で自治体の助けになっていると思う」と稲光は付け加える。

「私たちが間に入ることでコミュニケーションがスムーズになっていると思います。また私たちのようなコンサルタントが加わったJVが常に身近にいることで、インフラの維持管理について一緒に悩み、知恵を絞りながら取り組んで行くパートナーが生まれたことになり、安心感のようなものにつながっているのではないかと思います」

project-story-sanjo_img04.jpg

第1回PPP/PFI事業優良事例表彰を受ける

パシフィックコンサルタンツがJVに入ることによって、新しいステージに進んだ三条市の包括的民間委託(インフラ維持管理)事業は、2024年6月、内閣府が選定する第1回PPP/PFI事業優良事例表彰(人口20万人未満の地方公共団体で事業化された事例部門)で「特別賞」を受賞した。評価の理由として、次の4点が掲げられた。

  • 各施設の維持管理・修繕等の一連の業務を民間事業者に一元的に委ねることで、迅速なサービス提供を行っている
  • 平成29年4月にスモールスタートで三条市中心の一部エリアの道路と公園管理に包括委託を導入した後、現在、第Ⅲ期目の包括委託を実施しており、官民対話のもと委託内容を段階的に拡大している
  • 新技術を活用した路面情報の確実なデータ蓄積、AI 技術を活用した路面の健全性の可視化や補修箇所の選定を行っている
  • 先導的な事例として、包括的民間委託の手引きや学協会や専門誌に掲載され広く周知されている


(出典:内閣府ホームページ 第1回「PPP/PFI 事業優良事例表彰」受賞事業)
https://www8.cao.go.jp/pfi/hyosho/pdf/r6_h_besshi2.pdf

インフラ維持管理についてのコンサンルタントの新たな役割

三条市の包括的民間委託は、2024年4月から5か年契約で第Ⅲ期に入るなど順調に拡大を続け、地方公共団体におけるPPPを活用したインフラ維持管理の新たな形として定着した。三条市を視察に訪れる自治体も多く、同様の取り組みが今後全国に広がっていこうとしている。コンサルタントとしてインフラ維持管理支援に新しい道を拓きたいと臨んできた稲光は、ようやく階段を一段上がることができたと感じている。

「インフラの新設が減っていく中、コンサンルタントとしての次の活躍の場はどこなのか、それを考えながら10年間取り組んできました。私たちは今、新たな構造物の建設・整備だけではなく、自治体と共に既存のインフラを維持管理し、まちを守っていくために、蓄積した技術を使い知見を注いでいかなければならないと思います。社会インフラ整備という課題に対するコンサルタントの役割の転換だということもできるのではないでしょうか」

入社以来、包括的民間委託の世界で、稲光とともに試行錯誤を続けてきた中井も、この事業は始まったばかりであり、まだまだ拡大していかなければいけないと意気込みを語る。

「地域のためになる仕組みをつくり、そこに自分たちも参画して一緒に実行していくことを大切に考えながらやってきました。維持管理は地元の力によるところが大きいので、それをいかにサポートするかが私の仕事です。この取り組みをさらに広域に拡げていこうという動きがあるので、その力にもなりたい」

松岡は入社5年目のチーム最年少メンバーだが、こう意気込みを語る。

「現地JVのメンバーと直接やりとりをしながら、多くのことを学ばせてもらいました。提案した施策がすぐに実行に移せて、結果が返ってくる、喜ばれることも多いので、やりがいを感じます。インフラの維持管理は、人々の暮らしを守り国を守るという仕事です。重要性はますます高まっているので、自分を成長させながら貢献してきたい」

project-story-sanjo_img05.jpg

最後に稲光はこう締め括る。

「今後は自治体単独ではなく広域連携がテーマになります。そうなればファイナンスも重要になる。特別目的会社(Special Purpose Company:SPC)をつくって資金を回していくPFI事業として、さまざまな工夫を加えたり事業スキームを検討していく必要が出てくると思います。私たちにはPFI事業の長年の蓄積もあります。SPCのなかに入って活躍できるような人材も育てていきたい。それが地方が今抱えるインフラ維持管理の課題解決に貢献し、地域の発展に役立つものになると思います」

PPP/PFIで多くの実績を積んできたパシフィックコンサルタンツが、インフラ維持管理の世界に新たな解決策を提示しようとしている。

稲光 信隆

INAMITSU Nobutaka

交通基盤事業本部
インフラマネジメント部 空間創造室 室長

1999年入社。専門はアセットマネジメント、包括的民間委託。国の政策支援として「道路橋の集約・撤去事例集」、「包括的民間委託導入の手引き」、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の策定への関与、インフラ管理者による導入・実践の支援に従事。現在は「空間情報とマネジメント技術でインフラ維持管理・防災に革新を!」というテーマのもと、「陸」「空」「宇宙」で得られる空間情報を駆使した実効的なマネジメントの仕組み構築と運用を支援するサービスの開発・提供に取り組んでいる。技術士(建設部門、総合技術監理部門)、認定アセットマネージャー国際資格。

中井 諒

NAKAI Ryo

交通基盤事業本部
インフラマネジメント部 空間創造室

2015年入社。包括的民間委託の導入検討・発注支援、検証・改善検討や事業者側での参画等、多面的に包括委託の業務に従事。国政策支援では、「包括的民間委託導入の手引き」の策定に関与。現在はドローンの活用を中心に維持管理や災害時の初動対応における空間情報を用いた技術・マネジメントサービスの開発・提供に取り組んでいる。技術士(建設部門)、認定アセットマネージャー国際資格。

松岡 昌宏

MATSUOKA Masahiro

交通基盤事業本部
インフラマネジメント部 空間創造室

2020年入社。地域インフラ群再生戦略マネジメントをはじめとしたアセットマネジメント施策の策定に関与するとともに、包括的民間委託の導入検討や舗装・橋梁等の長寿命化修繕計画などに取り組む。三条市における包括的民間委託では、事業者側の立場で効率的な道路インフラの維持管理の実現に向けて課題解決に取り組んでいる。技術士補(建設部門)、1級土木施工管理技士補、専門統計調査士。

RELATED POSTS

インフラの包括的民間委託とは?

限られた人員と予算の下で道路をはじめとするインフラをいかに守っていくのか――地方公共団体の大きな課題になっています。その有望な手法として注目を集めているのが「包括的民間委託」。この分野を新たに拓き、多くの実績を上げているパシフィックコンサルタンツの交通基盤事業本部 インフラマネジメント部 空間創造室の稲光信隆と、社会イノベーション事業本部 PPPマネジメント部 インフラPPP室の村松和也、大阪本社交通基盤事業部 インフラマネジメント室の田中滋士の3人に話を聞きました。

サウンディングとは?

官民連携プロジェクトで急速に拡大している「サウンディング型市場調査」。 市民ニーズが多様化する中、事業の創成や成功のために民間事業者の声を聞くことの重要性は高まっています。サウンディング調査の現状と課題について、社会イノベーション事業本部 総合プロジェクト部ソーシャルグッド創成室の小川徹に話を聞きました。

社会を支える根を守る

私たちの足元よりさらに下にある地下のインフラ施設のことを考えたことはあるでしょうか? 移り変わる下水道事業の維持管理について、当社の考えを整理しました。

Pacific Consultants Magazine

パシフィックコンサルタンツのプロジェクト等に関する最新情報をお届けするメールマガジンです。当社のインサイト、プロジェクト情報、インタビューや対談、最新トピックスなどの話題をタイムリーにお届けするため、定期的に配信しています。

ご入力情報はメールマガジン配信をはじめ、当社が提供する各種情報提供のご連絡などの利用目的のみに使用し、第三者に断りなく開示することはありません。
詳しくは当社個人情報保護方針をご覧ください。