長く国体の愛称で親しまれてきた国民体育大会が、「国民スポーツ大会」へと名称を変えて開かれる第1回大会が2024年10月佐賀で開催された。“体育からスポーツへ”の転換は会場整備の考え方にも貫かれ、会場は大会終了後も長く地域に親しまれる日常的なスポーツと健康の拠点として活用されることが求められた。そのためには、県と市、建築と土木、ハードとソフトといった区別にとらわれることのない未来を見据えたトータルデザインが欠かせない。サンライズパークと文化会館西側広場の外構設計を担当した大阪社会イノベーション事業部都市デザイン室の上出竜司と栄光橋の設計をメインで担当した九州交通基盤事業部構造室の野中秀一が取り組みを振り返った。
INDEX
- 国スポ会場に求められた未来志向のデザイン
- 1つの世界観、1つのコンセプトでまとめる
- つくるものは何も決まっていなかった
- エリア全体が光の帯で包まれる唯一無二の夜間景観
- 2024年度土木学会デザイン賞 最優秀賞とグッドデザイン賞をW受賞
- スポーツをテーマにした新しい賑わいの創造
![写真:SAGAスタジアム](../../images/project-story-saga-sunrisepark_img01.jpg)
国スポ会場に求められた未来志向のデザイン
終戦翌年の1946年、第1回国民体育大会が近畿地方を会場に開催された。大会は「広く国民の間にスポーツを普及し国民の体力向上を図るとともに、地方スポーツの振興と地方文化の発展に寄与する」ことを目指すものとされ、毎年、各県持ちまわりで開催されることになった。開催県となることがスポーツ施設整備に大きな役割を果たしたことは言うまでもない。しかしすでに全国を一巡、1985年からは二巡目に入った。各県の施設整備も進み、むしろ大会規模の拡大と共に運営にかかる費用が開催県の大きな負担となるなか、大会開催には新たな目標が求められた。
新「国スポ」の第1回開催県となった佐賀県は「国民スポーツ大会をきっかけとして、スポーツのチカラを活かした人づくりや地域づくりを進めていく」と宣言、大会後も見据えた環境整備を進めることを打ち出した。それが「SAGAサンライズパーク」だった。陸上競技場や屋内体育館、プールといった施設の整備にとどまることなく、エリア一帯をスポーツやエンタテインメント、健康をテーマに、将来にわたって県民が日常的に楽しめる場所とすることが目指され、サンライズの名前も「ここから新たなまちづくりやライフスタイルが始まり、佐賀を光り輝かせていく」という想いから命名された。
具体的にはSAGAスタジアムの大規模改修、SAGAアクア(国際基準プール)とSAGAアリーナ(多目的アリーナ)の新設に加え、これらの施設をペデストリアンデッキで結び、さらに国道を挟んで反対側に立地する佐賀市文化会館の西側広場、そして両者をつなぐ歩道橋(栄光橋)などを一体として整備することがテーマになった。現在と未来、非日常と日常、ハードとソフト......すべてが新たなまちづくりやライフスタイルに応えるものとしてトータルにデザインされなければならなかった。
![写真:SAGA SUNRISE PARK](../../images/project-story-saga-sunrisepark_img02.jpg)
1つの世界観、1つのコンセプトでまとめる
「一つひとつの建物を大会会場として整備するのは難しいことではありません。しかし、今回のSAGAサンライズパークの外構設計には、1つの世界観やコンセプトが必要であり、その下に全体がトータルにデザインされなければなりませんでした」とサンライズパークと文化会館西側広場の外構設計を担当した上出が振り返る。
「しかもスタジアムやアリーナ、プール、およびそれらの外構は県のSAGAサンライズパーク整備推進課の管轄ですが、国道と一体となった歩道空間と歩道橋は県土整備部道路課の管轄であり、佐賀市文化会館は名前の通り市の施設で西側広場も地域振興部や建築住宅課の管轄です。つまり、一体的なデザインが求められていながら、整備の責任は県と市のさまざまな部署に分かれ、また、施工者もばらばらでした。 その中でいかに意思統一を図っていくか、この点は重要なポイントでした」
統一的なデザインが欠かせないと考え、サンライズパークと歩道橋、文化会館西側広場全体の設計・トータルデザイン及び監修・デザイン監理をワークヴィジョンズ、パシフィックコンサルタンツ、そして設計共同企業体の梓設計、石橋建築事務所、三原建築設計事務所の設計チームで実施。パシフィックコンサルタンツはその一員として、SAGAサンライズパークの外構と歩道橋(栄光橋)の設計及びデザイン監理を担うことになった。
つくるものは何も決まっていなかった
大会終了後もスポーツや健康をテーマにした新たなライフスタイルを支えるまちをデザインすることが求められていたが、具体的につくるものが決まっていたわけではない。そこが最も難しかったと上出は言う。
「通常の業務であれば、何を設計するのかということは明確です。それをどういう仕様で、どんなデザインでつくるのかを考えていけばいいのですが、今回は外構空間に何をつくるかは決まっておらず、ここに昼間だけでなく夜も居心地の良い場所をつくりたいという方針と簡単なイメージ図があるだけでした」
![写真:栄光橋](../../images/project-story-saga-sunrisepark_img03.jpg)
SAGAサンライズパークの美しいシンボルとなっている「栄光橋」の設計を担当した野中が振り返る。
「新たに大人数を収容するアリーナを整備するにあたり、競技やイベントのあとに流れ出てきた人々に安全で快適な経路を確保するため、国道を横断する歩道橋が必要ということになり、パーク全体の動線計画の依頼を受けたのがこの案件のはじまりでした。社内の専門技術者の協力による定量的なアプローチにより、県を含む関係者の了解が得られ、橋の計画がスタートしました。ただ、当初のイメージはごく一般的な歩道橋です。しかし、もしここに日本中のどの国道にもあるような歩道橋を架けてしまったら、外構全体のデザインが崩れてしまいます。トータルデザインに当たった会社とともに、シンボル性を持ちつつも、パーク全体や周辺の景観と調和するよう、デザインの提案を行いました。橋のデザインの重要性については県にも理解があり『アーチ橋や斜張橋のようなものまでは予算上難しいが、一般的な桁橋にするにしても最大限デザインされた橋にしていこう』ということで合意できました」
エリア全体が光の帯で包まれる唯一無二の夜間景観
外構設計担当の上出と橋梁の設計担当の野中が、県をはじめとする多くの関係者間の調整を図りながら設計を進めた。外構を担当した上出が特に配慮したのが国道の両側に広がる空間の一体的なデザインだった。道路とパークの舗装材を統一して境界を曖昧にして広がりを演出、舗装材には質感の豊かな地場産の骨材や、経年変化で味の出るコンクリート小叩き仕上げを採用することで、夜の照明を優しく受け止める落ちついた空間をつくりあげた。植栽と一体となったベンチも新たにデザインしたものだ。さらに丁寧に検討したのが照明だった。照明デザイナーと協働し、ベンチや街路樹を控えめな光でライトアップしただけでなく、エリア全体の色温度を統一した。さらに間接照明を随所に組み込むことで、美しい光に包まれた空間をつくり、夜の散策やランニングも楽しめる場所にしている。橋から降りる階段の側面は姿見になるステンレスで仕上げた。こうしておけば、ストリートダンスを楽しむグループの練習場所になり、その姿は新しいまちの彩りとなる。
![写真:夜間景観1](../../images/project-story-saga-sunrisepark_img04.jpg)
橋梁については野中が丹念に設計を進めた。「国道を跨いで東西をつなぐ歩道橋は、歩行者の移動のしやすさという機能上の役割を超え、新しいエリアの魅力を敷地の外側の利用者にも伝える象徴的な存在です」と野中。勝利への期待を胸に、あるいは勝利の余韻を楽しみながら渡ることから「栄光橋」と名付けられた橋を、野中は「土木の橋もここまで美しく架けられるのだということを示す」橋にしたいと考えていた。
「通常、橋の照明は橋のデザインが決まってから検討することが多いのですが、栄光橋はスタジアムやアリーナを結ぶペデストリアンデッキのほうから光のラインが連続してくることがわかっていたので、この光の帯をそのままつなげたいと考えました。トータルデザイナー・照明デザイナーと協働し、光の帯が橋をきれいに浮かび上がらせるように桁のブラケットと先端に走らせたシンボルパイプを間接照明で照らし陰影をつくりました。鳥の羽のような繊細で優美な桁の造形ができたと思います。また、光が見えても照明器具は見えないように細部のディテールを工夫し、電気配線もすべて隠しています。さらに光が当たったときの面が美しいように、鋼部材の接合には一般的に用いられるボルトを使わず現場溶接としました。曲線を多用しながらも、溶接に伴って生まれるわずかな膨らみが節のように見えてこないようグラインダー(電動工具)で処理しやすい細かい設計と、施工段階でのデザイン監理をおこなっています。佐賀は伊万里焼などのクラフトの伝統のあるまちです。『さがデザイン』という取り組みも行政が主導しています。そのまちにふさわしい繊細で美しいデザインを考えました」
![写真:夜間景観2](../../images/project-story-saga-sunrisepark_img05.jpg)
2024年度土木学会デザイン賞 最優秀賞とグッドデザイン賞をW受賞
2018年の設計開始以来、竣工まで足かけ5年の歳月を要したSAGAサンライズパーク+栄光橋+佐賀市文化会館西側広場の一体整備事業は、2023年5月に無事竣工、2024年10月には予定通りSAGA2024国スポ・全障スポが開催され、その後もマルシェやイベント、音楽ライブ、さらに散策やランニングなどを楽しむ市民の姿があり、新たな賑わいの舞台となった。2024年度の土木学会デザイン賞 最優秀賞とグッドデザイン賞の受賞も決まり、土木学会デザイン賞では次のような評が寄せられた。
「まずトータルデザインの達成度に敬意を表したい。県と市が一丸となり、土木・建築、設計・施工等、多くの垣根を越えた一体的整備が実現している。栄光橋自体のデザインも、連続するブラケットとシンボルパイプが優雅に広がり、全溶接接合による桁外面仕上げとそれをやさしく包み込む夜間照明の美しさには目を奪われた」(審査員講評の一部を抜粋)
「橋からパーク内に至る全ての柵が細く透過性の高い縦格子で統一される等、ディテールに至るデザインコントロールも徹底されている。店舗が並ぶテラスでは、温かみのある県産の杉材が使用され、テーブル等のファニチャー、着座可能な段差空間の配備等、人を寄せつける場所への拘りも随所に見られた。パークと歩道の舗装材の統一や文化会館西側広場内から歩道まで伸びる石材舗装のラインも、地味に見えて県・市・県警等との連携なくしてできない証左といえる。......本作品の優れた点は、県と市、土木と建築、設計者と施工者などのさまざまな境界を越え、各施設のデザインにそれぞれ個性をもたせながらも、それらを『ひとつのデザイン』として破綻なくまとめあげたことにある。......そのデザインマネジメントは見事というほかない」(同上)
スポーツをテーマにした新しい賑わいの創造
外構と栄光橋の設計を担当した上出、野中の2人にとっても、大きな手応えのある仕事になった。
「オープン後に写真を撮りに現地に行ったときのことです。たまたま通りかかった地元の高校生が『私ここがすごく好きなの!幻みたい!』と話しているのが聞こえてきました。設計者冥利とはこのことですね。私はもともと橋が好きで、その設計がしたくてパシフィックコンサルタンツに入ったのですが、先輩にディテールを丁寧に積み上げていくことの大切さを教えていただいたことが栄光橋のデザインにつながりました。これからも細部を大切に、見上げる人や渡る人の気持ちが豊かになるような橋をつくっていきたいと思っています」(野中)
「全体デザインの監修に当たった会社の粘り強い取り組みと、さらにその指揮の下でコミュニケーションを取りながら設計を進め、施工者とも一緒に現場で苦労しながら一つひとつ仕上げていった私たちの取り組みが、大きな成果につながったと思います。チームの調和とバランスということの大事さを改めて感じた仕事でした。夜もジョギングしている人の姿が多く、ショップや公園も賑わっています。今までになかったいい場所ができたこと、その力になれたことに満足しています」(上出)
SAGAサンライズパークを中心とした新たなライフスタイルの舞台の創造――それは総合コンサルタントとしてのパシフィックコンサルタンツだからこそできた仕事だった。
プロジェクト概要
整備対象:SAGAサンライズパーク 敷地面積164,683m2
栄光橋 橋長83.8m 有効幅員9.0m~18.0m
佐賀市文化会館西側広場 敷地面積1,615m2
設計:2018年3月~2020年8月 施工 2020年5月~2023年3月
竣工:2023年5月13日
事業者:佐賀県 SAGAサンライズパーク整備推進課
佐賀県 県土整備部 道路課
佐賀市 地域振興部 歴史・文化課ほか
設計者:株式会社ワークヴィジョンズ
(SAGAサンライズパーク/栄光橋/佐賀市文化会館西側広場
トータルデザイン及び監修・デザイン監理統括)
パシフィックコンサルタンツ株式会社
(栄光橋 橋梁デザイン・橋梁設計・デザイン監理
SAGAサンライズパーク外構・文化会館西側広場 設計監理)
株式会社梓設計、株式会社石橋建築事務所、株式会社三原建築設計事務所
設計共同企業体(SAGAサンライズパーク設計監理)
株式会社石橋建築事務所(文化会館西側広場 設計監理)