パシフィックパワーは地域新電力事業の推進を目的に、パシフィックコンサルタンツの100%子会社として2015年に設立されました。電力の小売・卸売、熱供給・熱利用およびそれに関連する事業を通して新たな地域経営のスタイルを自治体とともに探り、 それを地域振興に結びつけていくことを目指しています。すでに自治体新電力17社を設立、現在は自治体新電力を核に脱炭素化を経済の成長とともに実現する地域版GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けてさまざまな活動を展開しています。パシフィックパワーの歩みと今後目指すものについて、設立当初からのメンバーである社長の合津美智子とソリューション営業部長の牟田俊介、事業企画部長の松田健士に話を聞きました。
INDEX
- パシフィックパワー設立が目指したもの
- 自治体新電力17社を設立して小売電気事業を推進
- 省エネ・創エネ・エネルギーマネジメントの3分野で事業展開
- マイクログリッドの整備を通したエネルギーサービス事業も
- 自治体新電力と並行して独自事業を推進
- 期待が高まる地域エネルギー会社の存在
- これから目指すもの――コンサルティング能力を備えたエネルギー会社として
パシフィックパワー設立が目指したもの
2016年4月の電力小売全面自由化を前にパシフィックコンサルタンツは子会社として株式会社パシフィックパワーを設立、小売電気事業に進出しました。
従来、パシフィックコンサルタンツは、人口減少や高齢化、社会コスト増や税収減などの環境変化の下で地域のインフラサービスを維持し地域振興を図っていくためには、行政と民間企業、住民の協働によって新たな仕組みと担い手をつくっていかなければならないと考えてきました。実際、インフラ土木の分野では、道路や下水道の包括管理という取り組みを進め、自治体とともに地域経営の新たな展開に踏み出しています。パシフィックパワーの設立は、その取り組みをエネルギー分野に拡大することを目指したものでした。
具体的には、パシフィックパワーは自治体との共同出資により自治体新電力を設立、域内で発電されたものを中心に電力を調達し、自治体が運営するさまざまな公共施設に、できるだけ低価格で電力を供給しています。それによって電気料金負担を抑えて自治体財政の健全な維持に貢献すると同時に、エネルギーの地産地消の媒介役となることを目指した取り組みです。さらに、従来、域外に流失していた電気料金を域内にとどめて再投資に回すことにより、事業収益の確保や地域における省エネ・創エネの推進、ひいては地域経済の振興につなげていくことを追求しています。
自治体新電力17社を設立して小売電気事業を推進
自治体新電力設立の提案に対して、当初は「自治体でそんなことができるの?」「そんなにいいことずくめなら、なぜ誰もやっていないの?」と疑問視する自治体もありました。「直近の法改正で小売り自由化が進んだからこそできることで、まだ周知は進んでいない。取り組みはこれから始まる」と説明し、間もなく4つの自治体で自治体新電力を設立しました。それが引き金になって設立自治体が増え、これまで17の自治体新電力を設立し、すべての会社に取締役を派遣して積極的に経営に関与しています。現在全国には103の自治体新電力がありますが(2024年4月末時点、経産省調べ)、民間企業として17社もの設立・経営に関わっている会社はなく、自治体新電力分野でパシフィックパワーは先頭を走っています。
私たちが自治体新電力事業で大きくリードしている理由は2つあります。1つは確実に利益を生み出すノウハウを持っていることです。
地域新電力が安定して電気を供給するために求められることに需給調整があります。
電気は貯めることができないので、需給は常に「同時同量」でなければなりません。バランスが崩れると周波数が乱れて電気の供給を正常に行うことができなくなり、安全装置が働いて発電が停止します。2018年9月に発生した北海道全域の"ブラックアウト"は、この電力需給バランスの崩壊が原因でした。
そのため旧一般電気事業者(東京電力グループなど)はさまざまな発電所の発電量をリアルタイムで調整しながら、需要と一致させています。自治体新電力も、規模は小さいとはいえこの調整を行わなければなりません。1日を30分単位で48コマに分け、需要に合わせてどこからどれだけの電力を調達するか、特に太陽光発電などは天候によって発電量が刻々と変化するので、それも織り込んだ複雑なソフトウエアを動かして計算します。予測が不正確で電力に過不足が生じても、システムで自動的に吸収したり補填したりすることができますが、緊急に電力卸売市場などから予定外の調達をする場合、購入価格は非常に高いものになるので事業採算を悪化させます。
パシフィックパワーはこの分野に知見を持った社員がシステム会社と協力して独自のシステムを開発したことから、事業当初の初期投資を低く抑えることができたと同時に、運用開始後も小売価格を抑えながら数%から15%の利益を確実に確保することができました。パシフィックパワーが設立に関わった自治体新電力では、基本的に、電力供給を設立1年以内に開始し、供給開始後1年で単期黒字を達成するなど、良好な事業実績となっています。
パシフィックパワーが自治体新電力分野で力を発揮してきた理由のもう1つは、電力の小売りにとどまらないさまざまな省エネ・創エネ事業への展開力であり、それを通した地域振興への貢献度の高さです。
もともとパシフィックコンサルタンツがパシフィックパワーの設立を通して目指してきたのは、小売電気事業による収益の拡大ではありません。目的はエネルギー分野において新たな地域経営のスタイルを自治体と一緒に探り、それを地域振興に結びつけていくことです。そのためパシフィックパワーは自治体新電力の設立による小売電気事業で自治体の光熱費負担の軽減を図るだけでなく、自治体新電力が得た利益を、省エネや創エネ、エネルギーマネジメントの高度化などの事業に積極的に再投資してきました。多くの自治体新電力が域外の民間会社からノウハウの提供を受けて小売電気事業だけを展開しているなか、パシフィックパワーが共同出資者となって設立された自治体新電力では、さらに一歩踏み込んださまざまなエネルギー事業を展開し、地域経済の活性化や地域振興につなげています。それは長年にわたり自治体に向けてインフラ分野に対するコンサルティング事業を展開してきたパシフィックコンサルタンツを母体とするパシフィックパワーだからこそ可能になった追求でした。
省エネ・創エネ・エネルギーマネジメントの3分野で事業展開
具体的には、自治体新電力は、低価格の電力供給事業をベースに、「省エネ事業」「再エネ導入促進(創エネ)事業」「エネルギーマネジメント事業」を3本の柱として事業を展開しています。
例えばその1つが省エネESCO事業です。
これはESCO事業者が電気の需要家に対し、省エネ設備の導入について、効果の診断、設計・施工、運転・維持管理、資金調達などに関するすべてのサービス提供とそれによって得られる省エネ効果を保証する契約を結んで省エネ設備導入を促進する事業です。電気の利用者側は、設備の導入によって安くなった光熱費分を、ESCO事業者にサービス提供の対価として支払います。
つまり従来と同じ光熱費を払えば、新たな設備投資ゼロで省エネ設備への切り換えができ、サービス料の支払いがおわれば、安くなった光熱費分は全額利用者側の収入となります。実際、こなんウルトラパワー(滋賀県湖南市)では、中学校体育館のLED照明への切り換えをこの方式で実現しました。
また創エネ事業(再エネ導入推進事業)の1つに、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)モデルと呼ばれるものがあります。
PPA事業者が主に企業などの施設屋上や遊休地に太陽光発電システムを設置します。設置費用はPPA事業者がすべて負担し、施設所有者は場所を提供する代わりに、設置費用や維持管理・点検の提供を無償で受けることができます。発電された電気に関しては、PPA事業者と施設所有者の間で料金契約を交わしたうえで提供を受けることが可能で、CO2排出削減効果も電力需要家側の成果としてカウントできます。設備投資やメンテナンスの費用負担なしで再エネの導入を図ることができるのが大きな魅力です。
また、設置可能な場所に最大限に太陽光パネルを設置すると、昼間に発電した電力が需要を上回ることが考えられます。その場合は、蓄電池を導入して余剰電力を蓄電池に貯め、夜間放電して利用する方法があります。EMS(Energy Management System)を組み込めば蓄電池の残量を見ながら自動的に充電と放電が最も効率的になるように自動的にコントロールできるので、省エネと創エネの導入効果を最大化することができます。これをエネルギーマネジメント事業として展開しています。
マイクログリッドの整備を通したエネルギーサービス事業も
また自治体新電力「CHIBAむつざわエナジー」では、小売電気事業と並ぶ、新たな事業展開として、マイクログリッド設備を導入し、道の駅とスマートウエルネスタウンの住宅33戸への電気と熱の供給を行っています。
もともとCHIBAむつざわエナジーでは小売電気事業として町内の太陽光発電と、東京電力、電力卸売市場から購入する電気で小売事業を展開していました。その後、地域でスマートウエルネスタウンと道の駅の開発計画が進行し、パシフィックコンサルタンツが開発提案を行っていたことから、パシフィックパワーもエネルギー事業に関する独自の提案を行うことにしたものです。地元産の天然ガスによる発電ができるということからガスコージェネレーションを行い、道の駅の屋根を使った太陽光とガスコージェネレーションによる電気をマイクログリッド(自営の専用線)でスマートウエルネスタウンの住宅と道の駅に供給、さらに天然ガスによる発電時の排熱を利用して地下水を加温して道の駅の温浴施設にお湯を供給するシステムを構築しました。小売電気事業とは別事業ですが、地域おける創エネ事業として大きな注目を集めています。
このCHIBAむつざわエナジーのマイクログリッドによるエネルギーサービス事業では、供用開始間もなくの2019年9月に台風15号による千葉県広域大停電が発生、周辺がすべて停電する中、このエリアだけはマイクログリッドを通した電力供給を継続することができたことから、道の駅の温浴施設を周辺住民に開放し、800人以上にシャワー、トイレ、携帯の充電を提供して一躍脚光を浴びました。
自治体新電力と並行して独自事業を推進
さらにパシフィックパワーでは自治体新電力を通したさまざまな取り組みと並行して、独自にVPP・DR事業への取り組みを進めています。VPPは「仮想発電所:バーチャルパワープラント」の略称で、DRは「デマンド・リスポンス、需要による調整」を意味する言葉です。
発電所による従来の電力供給は「同時同量」の実現のため発電所側が需要の増減に合わせて供給量を細かく調整しています。しかし、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを使った電源が増える中、再エネ由来の電力の不安定さが需給調整にとって大きな問題となっています。火力発電などの出力の上げ下げは簡単ですが、再エネの電気は調整が効きません。それが再エネ普及の足かせにもなっています。
この問題の解決のために、発電側ではなく需要家側が電力の需給調整を行う仕組みの構築が進められており、それがVPP・DRです。
工場や家庭などが有するエネルギーリソースの一つひとつは小規模なものですが、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術でこれらを束ね、遠隔で制御することで、電力の需給バランス調整に活用しようという試みです。この仕組みは、あたかも一つの発電所のように機能することから、仮想発電所(VPP)としての意味を持ち、従来は供給側(発電所側)が行ってきた需給調整を、需要側が行うことから、デマンド・リスポンス(DR)と呼ばれています。需要家側のエネルギーリソースの保有者(もしくは第三者)が、そのエネルギーリソースを制御する(発電量が過剰なときは機器を稼働して消費したり蓄電池に貯めたり、不足しているときは機器の出力を落としたりして需要を減らす)ことで需給調整に協力するというものです。それについては対価が支払われることになっているので、VPP・DRが事業として成立します。パシフィックパワーは公共インフラ分野に強力な営業ネットワークを持つパシフィックコンサルタンツと連携して、全国の上下水道施設や廃棄物発電施設のVPP・DR事業参加を支援しており、その実績数は国内でもトップクラスです。VPP・DR事業は再エネ普及を後押しする意味も大きいことから、パシフィックパワーとしても積極的に取り組んでいます。
期待が高まる地域エネルギー会社の存在
日本は現在2030年度の温室効果ガスの2013年度比46%削減、2050年のカーボンニュートラル実現という国際公約を掲げ、さまざまな施策を展開しています。その中でも、地域における取り組みは重視されており、令和6年5月閣議決定された「第六次環境基本計画」」ではその重要な担い手が「地域エネルギー会社」であることが明記され、その役割を次のように述べています。「地方公共団団体と連携した地域エネルギー会社は、再エネなどの地域資源を活用し、地域経済の活性化、地域課題解決に貢献する地域循環共生圏の主要な担い手になると共に、地域の中堅・中小企業の脱炭素化を支援し、地域産業の競争力強化にも貢献することが期待される」。
従来の第五次環境基本計画では「地域の再生可能エネルギーを活用し、低炭素化を推進する地域新電力等の事業体」と表現されていたものが、5年の歳月を経て「地域経済の活性化、地域課題解決に貢献する地域循環共生圏の主要な担い手としての地域エネルギー会社」という表現に大きく変わりました。電力供給にとどまらない持続可能な地域づくりに向け、その役割が期待されるようになっているのです。
その中で今パシフィックパワーが目指しているのは、まず自治体新電力をさらに広げていくことです。現在の17社を20社に拡大することを目標にしています。
またそれと同時に、自治体新電力が進める地域における脱炭素の取り組みを、強力に支援していきたいと考えています。
自治体新電力の設立もその1つとして、地域における脱炭素の取り組みが進んでいますが、実際に成果につなげていくのは簡単ではありません。実際、環境省が進めている「脱炭素先行地域」の指定による支援事業でも5年間にわたり50億円の補助金が支給されることから、多くの自治体や自治体新電力が応募して採択されていますが、再エネ導入などを実際に進めるのは容易ではありません。計画実施には軒並み遅れが出て、なかには交付金支給が決定しながら、先行地域の指定を辞退する自治体も現れています。
パシフィックパワーも関与する3つの自治体と自治体新電力の提案が採択を受けていることから、その支援を進めています。設備導入を支援する特別目的会社の設立もその一環です。
脱炭素先行地域としての取組では、最大50億円の交付金を活用しながら脱炭素を実現するための多数の設備を導入しますが、導入に当たっては調査や概略設計、収支計画の策定、資金調達などの業務や施工会社の手配、工事監理、稼働開始後の資金管理など、専門的な多くの業務が発生します。自治体や自治体新電力では担いきれず、また国の交付金も設備本体の導入にしか適用されません。
そこでパシフィックパワーでは民間の投資会社と共に特別目的会社「脱炭素推進機構」を設立(2024/4/11 プレスリリース)、導入に当たっての諸業務や資金管理を自治体や自治体新電力から切り離して特別目的会社に集約し、事業主体としての業務に専念できる環境を整えることにしました。
さらに、新たな電源となる地域資源を使った再エネの開発にも力をいれています。パシフィックコンサルタンツという多分野にわたる技術者集団を背景に持つパシフィックパワーは、例えば下水処理場におけるメタンガス発電といった新たな技術提案をする力を有しており、地域の実態に合わせたさまざまな再エネ事業提案を進めていきたいと考えています。
これから目指すもの――コンサルティング能力を備えたエネルギー会社として
パシフィックパワーは地域に価値を創出し、地域課題の解決や地域経済の活性化、それらを通した持続可能な地域づくりに貢献したいと考えています。それは脱炭素化と経済の持続的な成長を同時に可能にするというGX(グリーントランスフォーメーション)の地域における実現です。
一方で省エネを進め、他方で地域内のエネルギー資源を活用して発電した電力を地域内で消費していけばエネルギーの地産地消が実現し、それに伴う産業の育成・雇用の拡大を通じた地域の活性化が可能です。持続可能な地域づくりのためにGXは欠かせません。
事業機会は変化のあるところにしかありません。気候変動に対する危機感はリアリティを増し、カーボンニュートラル実現への施策の展開も、いよいよ待ったなしの状況です。誰もが取り組みの必要性を今まで以上の危機意識をもって感じています。変化があるところに飛び込んでいくことが、成長につながります。パシフィックパワーはコンサルティング能力を備えたエネルギー事業会社であり、その特徴を遺憾なく発揮することを通して持続可能な地域社会づくりに貢献していきます。