2025年4月13日、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開幕しました。関西経済圏の活性化やインフラの充実を目指した官民一体の取り組みが開幕に向けて進められるなか、パシフィックコンサルタンツも大阪本社を中心に万博開催を支えると共に今後の関西地域の発展のベースともなるさまざまなインフラ整備を継続して担っています。大阪本社長の山本幸弘と大阪営業部 部長の東條文典に話を聞きました。
INDEX
4年前からさまざまな準備活動をサポート
――いよいよ大阪・関西万博が開幕しました。
山本:国際博覧会(万博)が日本で開催されるのは、2005年に愛知県で開催された愛・地球博以来です。大阪では1970年に日本の高度経済成長をシンボライズし開催された大阪万博から55年、1990年の大阪花の万博から35年ぶりの3回目の開催となります。会場は埋立地である夢洲(ゆめしま)で、半年の会期中、約2,800万人の来場者が見込まれています。東京一極集中が続くなか、東京と並ぶ西の拠点の活性化は国土のバランスの取れた発展のためにも非常に重要です。ぜひ大きく盛り上がってほしいと願っています。
東條:今の日本には東京にすべてがある。東京に行かないと何も始まらないかのような感覚がどうしてもありますね。ですから、大阪をはじめとする関西圏が元気になることが日本全体を活気づけることにつながると思います。大阪は以前、2008年の夏のオリンピック招致に向けて活動したことがありました。今回の万博同様に夢洲を会場にした「初の海上オリンピック」という触れ込みだったのですが、中国・北京での開催が決まり、招致には至らず残念でした。
――万博開催に関連してパシフィックコンサルタンツはどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
東條:最も早いものでは2021年5月に「会場全体ランドスケープ及びパビリオン等基本設計」、その後2022年9月に「夢洲(万博会場のある人口島)第2期のまちづくりに向けた検討」を、いずれもJVで受託し、万博全体の基本設計から参画してきました。その後も「万博会場内人流シミュレーション業務の支援」「ランドスケープ設備実施設計」「大阪府域におけるタクシー現況調査及び需要分析」などの業務を受託、現在は、交通需要マネジメント(TDM)の観点から、施策の実行を支援しています。
山本:これらは直接万博開催に関わる業務ですが、万博を見越した関西圏のインフラ整備という意味では、並行してさまざまな取り組みを積み重ねてきました。その一つが神戸空港のターミナル整備です。当社が「構内道路等の基本計画」、「空港島護岸改良基本検討の立案」を行いました。万博では世界各国から人が来ます。関西圏には関西国際空港(関空)、大阪国際空港(伊丹空港)、神戸空港と3つの空港がありますが、国際線が発着しているのは関空のみで、これでは足りません。そこで神戸空港でまず国際チャーター便の受け入れをすることになり、国際線用の第2ターミナル整備を行いました。工事は完了し、2025年4月18日にオープン予定です。

出典:神戸市ウェブサイト
関西における社会インフラ整備の取り組み
――万博に限らずさまざまなインフラ整備に取り組んでいますね。
山本:万博は非常に大きなイベントなので直接・間接の業務もいろいろ受託してきましたし、関西に地域本社を置く企業として、長年にわたってさまざまなインフラ整備に取り組んできました。
――例えばどんなものがあるでしょうか。
東條:最近では2024年3月に開業した地下鉄御堂筋線の延伸工事(北大阪急行電鉄南北線工事)があります。2014年に大阪府・北大阪急行・阪急電鉄・箕面市の4者で最終合意したもので、当時終点になっていた千里中央駅から北に向かって約2.5km延伸し、箕面船場阪大前駅と箕面萱野駅を新設するものです。これについては当社が鉄道設計と2つの新駅の基本設計を行っています。大阪は南北に長い地形ですが、この延伸で箕面方面から新大阪や梅田、なんばなど、大阪都心部まで乗り換えなしの移動が楽に早くできるようになり、南北軸の輸送がさらに強化されました。大阪全体の活性化につながるものになったと思います。

山本:大阪は明治時代には「水の都」と呼ばれ、水運が発達し、豊かな水辺の景色に恵まれた土地ですが、治水も大きなテーマです。大阪府は2019年2月に安治川水門、尻無川水門、木津川水門の3大水門について、建造から半世紀近くを経過して老朽化が進み、かつ南海トラフ地震による津波への耐力が求められることからすべて新設することを決定しました。「津波対策施設等基本検討業務」の公募型プロポーザルが行われ、最優秀提案者として当社が選ばれ、その後に木津川水門の詳細設計も受託しています。
――本社を構え社会インフラ整備に関わる主要な分野を網羅していることが、さまざまな取り組みにつながっていると言えますね。
山本:大阪本社では国土基盤事業、交通基盤事業、さらに社会イノベーション事業と今期から新たに設置したデジタルサービス事業の各部を中心に、あらゆる分野の事業を担っています。技術分野は多彩でありながら東京よりもコンパクトな組織なので分野相互間のコミュニケーションが取りやすく、その点は大阪本社の特色と言えるかもしれません。

土木学会デザイン賞 2023優秀賞、2022グッドデザイン賞など複数の賞を受賞
写真提供:生田将人
東條:取り組みの幅は本当に広くて、鉄道とまちづくり、河川の例を挙げましたが、他にもカーボンニュートラルの取り組みの一環として、大阪港・堺泉北港・阪南港という3つの港が連携して2050年カーボンニュートラル達成を目指す「大阪"みなと"カーボンニュートラルポート形成戦略等検討業務」を2024年8月に大阪市から受託しました。2026年2月完了に向けて推進戦略の策定を進めています。この戦略はカーボンニュートラルの達成に向けて公共側でとるべき施策や、荷主企業や港運事業者、船社など、民間企業を含めた港湾全体で取り組む施策など含めて立案するものであり、先進的で意欲的な取り組みです。
山本:インフラの維持管理はどの自治体にとっても課題ですが、吹田市における「下水道管路施設維持管理等業務」は、地元企業と当社のJVが受託して2期目になります。吹田市が進める「事後対応型」から「予防保全型」へのシフトを受け、単年度ではなく5年間の長期にわたる包括的で計画的な維持管理業務を当社が全体のマネジメントを担いながら進めています。吹田市では令和5年度末時点で下水道管理延長約867kmの内、老朽管路が約252km(29%)あり、今後10年間で約40%にまで増加します。人員や予算に限りがあるなか、これまで直営や個別委託によって行ってきたインフラの維持管理を予防保全型に切り換え、官民連携で包括管理していくことは非常に有効で、当社では新潟県三条市をはじめとする全国で先進的な取り組みを進めてきました。三条市の事例では第8回インフラメンテナンス大賞の国土交通大臣賞も受賞しています。そのノウハウも活かしながら吹田市での取り組みを進めているところです。
東條:自治体のインフラ維持管理は本当に切実です。通称「群マネ(地域インフラ群再生戦略マネジメント)」と呼ばれていますが、従来の行政区域にとらわれず、広域的な視点で、複数・多分野のインフラを「群」として捉え、地域が連携してインフラメンテナンスに取り組んでいくことが期待されています。関西圏でも泉州地域の8市4町が地域インフラ群再生戦略マネジメントのモデル地域に採択されました。この地域での取り組みの一環として、市町道の維持管理に関する包括連携協定をパシフィックコンサルタンツ、泉州地域8市4町、三井住友海上火災保険、大阪大学大学院工学研究科、の間で2025年3月31日に締結しました。三井住友海上火災保険のドライブレコーダーを用いて、AIによる画像分析によって道路損傷データを取得し、それを大阪大学大学院工学研究科とパシフィックコンサルタンツが分析・検討、定量データを使った適切な管理基準設定や今後必要となる補修ストックの明確化など、予防保全に役立つシステムの構築を進めるものです。今後のモデル的な取り組みになるのではないかと思っています。
東と西、2つの経済圏の発展が日本の未来をつくる
――関西圏の活性化は関西だけでなく日本の未来を拓くことにつながりますね。
東條:私は四国を含め関西圏で20年くらい仕事をしてきました。関西は非常にポテンシャルのある地域だと思います。大阪、神戸、京都とそれぞれ違う魅力ある都市が近接していて、瀬戸内海という魅力的な内海があり、四国もすぐです。当社は高松空港の運営事業に出資企業の1社として加わっていますが、地域の発展のためにはこの空港を利用して訪ねたいと思ってもらえる魅力的な目的地がなければいけません。今後いかに魅力ある高松、香川、四国、瀬戸内エリアをつくっていくかが課題です。
山本:首都圏は東京が突出している感じがありますが、四国を含む関西圏は広域の連携が取りやすい地域です。それを活かして関西・四国地域全体を元気にしていきたい。一方で、同時に南海トラフ地震への備えも求められます。2025年は阪神淡路大震災から30年の節目を迎えた年です。すでに震災を知らない世代も増えていることから、あらためて教訓を伝え、災害に強い関西・四国地域にしていくことも、私たちの使命だと思います。
今は万博が話題ですが、万博はゴールではなくスタートです。当社のステートメントにもありますが、私たちは「時代とともに変化する社会課題と未来の社会課題を見つけ出し、インフラエンジニアリングを核とした先進的なサービスによって解決すること」を使命としています。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。万博をきっかけにたくさんの方に関西に来ていただき、新たな世界に触れ、未来社会を体験し、「いのち輝く未来」をどうデザインするのか、一緒に考えていきたいと思います。