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防災・レジリエンスとは?

BCP担当者が知るべき情報と事例を解説

国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」が「災害に対するレジリエンスの強化」を謳って以来、レジリエンスが防災の重要なキーワードとなっています。従来の防災・減災の考え方を一歩前に進めたと言われるレジリエンスとは何であり、どうすれば実現できるのか、デジタルサービス事業本部 防災事業部長の伊藤孝司に話を聞きました。

INDEX

防災・レジリエンスとは

レジリエンス(resilience)とは、英語で「弾性」や「病気や不幸からの迅速な回復力」を表す言葉です。

心理学や健康面で使われることが多かったのですが、2015年に仙台で開かれた第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」で「災害に対するレジリエンスの強化」が明記され、それ以降、防災の重要なキーワードとして用いられています。

防災・レジリエンスは「困難な状況下でも基本的な機能などを保持し、また災害からの悪影響に対し抵抗できる強い芯を持ち、しなやかに回復できるシステム、コミュニティ、個人および社会の力」※1を意味しています。

また仙台防災枠組では「Build Back Better(BBB:よりよい復興)」という概念も新たに明文化されました。「災害による被害が繰り返されないよう、復興では以前よりも一歩進んだ安全性を備えたまちづくりをする」という考え方です。

防災・レジリエンスが打ち出された背景

「防災・レジリエンス」が打ち出された背景にあるのは、2011年に発生した東日本大震災です。

2005年に神戸で行われた第2回国連防災世界会議では「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、この期間に達成すべき防災・減災の目標と行動指針が設定されました。それに基づき災害リスク管理能力の強化によるリスクの削減が世界各国で進みましたが、その間も東日本大震災をはじめとする大きな災害が発生、深刻な脅威や損害をもたらしました。特に被害は女性や子ども、社会的な弱者などに集中、また、災害が日常生活や経済活動に与えるダメージも深刻さを増す一方でした。

こうした中で採択された「仙台防災枠組2015-2030」は、従来の防災・減災の考え方を一歩進めたものです。災害に対抗し、損失を減らすだけでなく、それを受け止め、社会全体として粘り強く対応し、人々の命や暮らし、健康を守ることをより重視すること、そして、人や企業、コミュニティ、国が持つさまざまな資産の損失をできる限り抑え、速やかに復旧・復興する能力を高めることの重要性を明らかにしたのです。

防災・レジリエンスの重要なポイント

新たな防災・レジリエンスの考え方のポイントは2つあります。

1つは、「想定外は起こりうる」という前提に立っていることです。

従来の防災・減災は「想定される被害」をどう防ぐか、いかにそれを最小限に食い止めるかという視点で考えられていました。逆に言えば「想定外が起きたら仕方がない」「その時のことはわからない」ということが前提だったのです。ところが東日本大震災は、まさにその想定外に直面させられたものでした。

想定外である以上、被害の発生は避けられません。そのことを前提に、いかに傷を浅くとどめ、また負った傷からどのようにしてすばやく立ち直るか、想定外にも踏み込み、その時でも社会活動をできるだけ継続させ、速やかに復旧・復興を図るための具体的でフレキシブルな対応をあらかじめ考えておこうということです。

もう1つのポイントは、防災・レジリエンスは政府や自治体がやってくれるものではないということです。

社会全体の災害対応力を高めることは、社会を構成する一人ひとりの課題であり、社会全体で取り組まなければ実現しません。国や自治体だけでなく、企業や大学、学術研究組織、ボランティアや市民団体、地域コミュニティなどが、それぞれ防災を自分ごととして受け止め、自分に何ができるかを考えて主体的に取り組むことによってはじめて、社会全体をレジリエントなものへと底上げすることができるのです。

図:防災・レジリエンスの考え方

防災・レジリエンスは「ハード」と「ソフト」2つの面から考える

防災・レジリエンスは、たとえば建物や堤防などの構造物を強くするというハードの話では終わらせることはできません。想定外も含めればハードを充実させることには限界があり、それのみでレジリエントな社会は実現しないからです。ハード面とともにソフト面の充実が欠かせません。避難所を例に取れば次のように考えることができます。

図:避難所を例とした「ハード面」と「ソフト面」

・ハード面の対応

まず避難者の数に応じた必要数を安全な場所に確保し、避難生活に必要な物資を備蓄しておきます。

また、避難所に向かう経路についても危険な場所がないかあらかじめ点検し、整備します。さらに、発災後に集まってくる支援物資の受け入れ場所も確保しておかなければなりません。

・ソフト面の対応

避難所を開設したとしても、避難の指示を、いつ、誰に、どういう形で出すのか。その際、1人では避難できない要支援者が、どこにどれだけいて、誰が避難誘導に当たるのか。そこまで計画しておかなければ、避難所はあっても実際の活用につながりません。

同様に支援物資についても、必要なものの情報をいかに発信し、集まった物資をどこに集めてどのように配分するのかという具体的なプランが欠かせません。こうした対策がなければ、必要としていないものまで大量に集まってしまったり、物資はあるのに分配できずに滞留してしまうということになりかねません。

実際、2024年1月1日に発生した能登半島地震でも避難所が開設されましたが、道路が寸断されてそもそも避難所に辿り着けなかったり、広範囲な断水や停電の影響で避難所の生活環境が劣悪なものになってしまったり、介護を必要とする人のための福祉避難所が計画通り開設できないなど、多くの問題点が浮き彫りになりました。また道路が寸断されたことから支援物資の輸送が大幅に遅れ、避難所として十分な機能を発揮できないといった事態も生まれました。

レジリエンスを高めるためには、あらゆるケースを想定した上で、ハード面とソフト面の双方のアプローチが欠かせません。同じことは、インフラの復旧や企業BCPの実行の場面でも同様です。ハード面の対策は、常に、誰がどのように運用するのかというソフト面と一体でなければ実現しません。そこで注目されているのが、OODA(ウーダ)と呼ばれる思考法です。

OODAは、迅速な意思決定・行動を行うための思考法です。

「みる」(観察:Observe)、「わかる」(状況把握:Orient)、「決める」(意思決定:Decide)、「動く」(行動:Act)という4つのステップがあり、それぞれの頭文字をとってOODAと呼ばれています。従来のPDCAサイクルは、現状改善のためにまず計画を立てて実行し、結果の検証を通して改善を図っていくものです。しかしOODAは刻々と変化する状況の中で収集したデータをもとに迅速・柔軟に意思決定していくもので、外的要因による変化にもすばやく対応することができます。VUCAの時代といわれる現代では、このような即応性と柔軟性にすぐれた思考法が必要とされるシーンが増えています。

図:思考法『OODA』

国・自治体に必要な取り組み

防災・レジリエンスは社会を構成するすべての人が、それぞれの役割を果たすことではじめて成り立ちます。

国・自治体に求められるのは、何よりも住民の命を守ることです。そのために2つのことが必要です。1つは発災時に住民をどう安全な場所に避難させ、避難先での生活をいかに守るか。2つ目は災害初期の緊急対応段階が過ぎた後の復旧・復興の支援をいかに進めるかです。

避難については避難所の設置と避難所への誘導が必要であり、支援物資に関する具体的な受援計画の実行が求められます。また、復旧・復興については、住民の生活再建(住まいや日常生活の安定、仕事の確保)の支援、インフラの復旧などが大きなテーマになります。特に道路や橋などの復旧は住民の生活に直結するものですが、すべての復旧に同時に着手することは非現実的です。優先順位をつけ、住民の暮らしにとって重要度の高いものから復旧を図るという判断と具体的な計画の立案・実施が求められます。

民間企業に必要な取り組み

民間企業の中には、生活必需品や食料品、医薬品などの生産に関係し、サプライチェーンの重要な一角を担っている企業が少なくありません。その企業の活動が止まれば、国民の生活に深刻な影響が及ぶことになります。机上のプランではなく、実効性のあるBCP対策が必要です。

また、大地震などの発生の際には、自社従業員の生命や身体を守り、帰宅困難な場合は、自社内で一定期間過ごせる準備が必要になります。さらに、発災時に社内にいた来客、特にイベント施設などであれば、大勢の来場者が施設内にとどまり一定期間を過ごすことも想定した対策が必要になります。しかし現状では、こうした来客・来場者について、避難誘導だけでなく滞在まで想定した対策を講じているところはほとんどありません。この検討も必要です。「当社施設は、いかなる時もすべてのお客さまを守ります」とアナウンスすることは、企業の社会的な信頼性の向上、ブランディングにもつながります。

パシフィックコンサルタンツの取り組み

防災・レジリエンスの考え方や取り組みがますます大切になってきている今、私たちパシフィックコンサルタンツは、さまざまな自然災害に関する防災計画・BCPの策定、防災教育や人材開発、さらに防災業務支援システムの構築による災害予防・災害対応支援などに積極的に取り組んでいます。

地震・津波

津波防災システム、津波避難シミュレーションの開発と活用。避難計画の策定や検証、及び訓練。大規模な地震や豪雨などの災害発生時における防災関連情報の迅速な収集と一元管理を行う「防災情報共有化システム」の設計・構築、運用保守など。

土砂災害

地盤調査技術・斜面解析技術・水理解析技術を駆使した土砂災害の発生予測、対策計画の策定。土砂災害危険度判定システムの構築・運用支援など。

河川氾濫・内水氾濫

気象・河川の状況把握から被災後の早期復旧に向けた対応・対策まで、多様化・複雑化する防災業務の改善を目的とした取り組み。具体的には危険箇所の自動検知や危険度の自動判定・予測、それらに基づく行動指南や遠隔支援などのDXメニューの開発・提供。また、「どしゃブル」※2しらベル※3などの誰でも使えるスマホアプリの開発・提供など。

民間企業のBCP対策

BCPが被災時に機能するものになっているかどうか、サプライチェーンも含めた図上での模擬訓練を通してプランをより実効性の高いものにブラッシュアップする支援活動の推進。災害発生時の事業継続に必要な情報を束ねるための災害対応支援ツール「エマシエン」の開発・提供など。

官民が力を合わせてレジリエントな社会に

防災・レジリエンスは災害をしっかりと受け止め、すばやく復旧・復興を実現するしなやかで強い社会を構築しようとするものです。それは誰かによって授けられるものではなく、国や自治体、民間企業、個人のそれぞれにやるべきことがあり、それが一つになることによってはじめて実現します。防災を自分ごととして捉え、災害に強い国や地域をつくるために、お互いに対して何をしてほしいかと率直に意見を表明し、それぞれの役割を明確にしながら力を合わせて取り組むことが必要です。そのコミュニケーションのハブとなる存在こそ民間のコンサンルタントである私たちであり、レジリエントな社会の構築に向けて果たすべき役割は大きいと考えています。

 パシフィックコンサルタンツは、世界の人々の 脅かされない、格差がない豊かなくらしを実現し、美しい地球、その環境を守り、未来へ引継ぐことを使命と考えています。そのためにも国内外における防災レジリレンスの強化を重要な任務と考え、その実現を通して世界の人々が平和に安心して暮らせる社会の構築を進めていきます。

※1 『市民のための仙台防災枠組 2015-2030』防災・減災日本 CSOネットワーク(JCC-DRR)

※2 どしゃブル:国交省が運用するレーダーによる雨量情報を使った危険度判定情報に土砂災害危険情報、地形情報を組み合わせ、背景地図とともに表示し、端末の位置情報を利用してユーザーに直接、必要な情報を提供するモバイルアプリ

※3 しらベル:水害・土砂災害・地震・津波から命を守るために参考となる全国各地の情報を国土交通省や国土地理院のオープンデータから収集・格納したモバイルアプリ

伊藤 孝司

ITO Takashi

デジタルサービス事業本部
防災事業部 部長

2004年入社。防災分野における各種計画の策定支援やデジタル技術を活用した課題の解決に従事。行政機関を対象とした観測システム、業務支援システムの企画、開発およびIoT、AIなどの最新技術の導入によるDXの推進を支援する。民間企業を対象としたBCP策定支援や防災デジタルサービスの事業化にも携わる。

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