パシフィックコンサルタンツグループでは2023年に、経営の指針としてDE&I(Diversity, Equity&Inclusion)を改めて宣言、さまざまな取り組みを進めてきました。現段階での成果や課題をどう考えるのか、今後どのような施策を進めていくのか――DE&I推進の責任者である総務部 部長の高西春二、国土基盤事業本部で施策の推進に当たっている本部長の小保方和彦、人事部でDE&Iプロジェクトを推進している人材開発室 室長 油谷百百子の3人に話を聞きました。
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D&IからDE&Iへ
――当社はこれまでもD&Iに取り組んできましたが、2023年に改めてパシフィックコンサルタンツDE&I宣言を出しました。それはなぜでしょうか?
高西: パシフィックコンサルタンツは設立から70年以上、さまざまな社会インフラの企画・調査、計画・設計、施工管理、維持管理にわたるまで、シビルエンジニアリングに関するありとあらゆるサービスを提供してきたプロフェッショナル集団です。シビルエンジニアリングとは、市民が平和に安心して暮らせる環境を整備する技術の総称であり、当社では技術・営業・事務といった職種に関わらず、すべての従業員がプロフェッショナルです。また、当社の最大の資本は「人」です。ジェンダー・年齢・国籍・ライフスタイルの多様性に富んだ人材が、自分らしく働き、活躍できることがパシフィックコンサルタンツグループの成長には不可欠です。そのため当社グループが、グローバル展開、事業変革、イノベーションを進めていくために、DE&Iの特にE(エクイティ)の要素が大切だと考えています。無意識の偏見によって公平な機会や活躍が阻害されることがないようにするためです。多様性があるからこそ、私たちのビジョン「未来をプロデュースする」を実現するための大きな力が発揮できると考えています。
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パシフィックコンサルタンツDE&I宣言
パシフィックコンサルタンツは、1951年に日米の技術者が共に日本の復興に貢献するため立ち上げた "Pacific Consultants. Inc." をルーツに持ち、技術分野の多様性と総合力を強みに発展してきました。グループビジョン「未来をプロデュースする」を実現するため、従業員一人ひとりの異なる知識・経験・価値観・個性を尊重し、更に個人の力・チームの力を最大限発揮・統合することにより、新たな価値を生み出すことが重要です。
多様な人材が生み出した新たな価値や変革により、グループビジョンの実現ひいては社会全体の持続可能な発展に貢献していきます。
――当社のダイバーシティ推進状況をデータから見るとどうですか。
高西:まずは女性の活躍状況についてです。正直、私たちの業界はかなり遅れていると認識しています。現在のパシフィックコンサルタンツの正社員に占める女性社員の割合は21.2%です。10年前は7.3%でした。新卒で入社する社員に限って見ると、過去10年間は30%以上、10年平均では34.8%になります。管理職で見ると女性の割合は8.3%、10年前の3.1%から3倍近くに増えていますが、決して胸を張れる数字ではありません。当社は2013年からD&Iを推進しています。ちょうどその頃に入社した社員が管理職になる頃には、女性社員比率と同等の20%くらいの数字であるべきだと思っています。また室長や部門長などの役職者に占める女性社員の割合は5.9%で、これは10年前から2ポイントの増加にとどまっています。この10年間、新卒で入社する女性社員の割合は確実に上がっていますが、管理職年次の女性社員が少ないこともあり、役職者に占める女性割合を高めていくのは今後の課題です。
その他の状況を見ると、当社では定年後も働き続ける方が大多数なので、シニアの活躍は進んでいますし、男性社員の育児休業取得率は81.1%と厚労省調査の全国平均30.1%に比べてかなり高いです。男性育児休業の平均取得日数も69日と、厚労省調査の全国平均46.5日を大きく上回ります。さらに全社グローバル化の経営戦略の下、外国人正社員も徐々に増えています。中途社員も多く活躍しており、前期(第73期)入社した社員のうち約3割が中途入社、会社全体で見ても約3割が中途社員です。新卒・中途関係なく活躍できるオープンな風土があります。
DE&Iを通してどういう会社を目指すのか
――DE&Iの推進を通して目指すものは何ですか。
高西:誰もが活躍できる柔軟な仕組みをつくり、人の成長のためにしっかり投資をしていきます。そして、パシフィックコンサルタンツグループの使命である「インフラ整備を通じて世界の人々が平和に安心して暮らせる社会を実現すること」と「地球環境を守り、豊かな地球を次の世代に引き継いでいくこと」を果たすため、私たちは世界をフィールドに活動を進めていきます。DE&Iがもたらす効果は世の中に多くの先行事例があり、エビデンスもあります。例えば、女性の活躍推進が進む企業ほど経営指標が良く、株式市場での評価が高まる傾向にあったり、ワークライフバランスに取り組む企業の方が、業績が良い傾向がみられる、といった調査結果があります。当社のさらなる発展のために、DE&Iを会社の隅々まで浸透させていきたいです。
――DE&Iの取り組み効果について身近な経験があれば教えてください。
油谷:私が所属するコーポレートは、もともと会社の中では多様性がある組織だと思います。女性社員も多いですし、男女ともに年齢の幅も広いです。事業本部からコーポレートに来た人もいますし、中途入社の人も多いです。施策を進める上でどうしたらいいかを考える際にも「事業本部の人ならこう感じる」とか「前の会社ではこんなやり方をして」といったことが自然に出てきて活発な議論になり、制度や運用の仕組みを工夫していくことができていると思います。
小保方:私は去年まで上下水道部で部門長をしていました。当社の上下水道部の仕事では、施工監理フェーズに関わることは少ないのですが、現場で施工監理の経験を積んで、ゼネコンから転職してきた社員からのコメントにハッとしたことがありました。同質のチームで話をしていても気づかないことです。それ以降、これまで以上にできるだけいろいろなメンバーの意見を聞くことを意識するようになりました。
高西:技術部門にいた頃、女性社員比率の高い部署で部門長を務めていたことがありました。常に誰かしら産休・育休を取っているような組織で、Aさんは何月から何月まで不在、Bさんはこの期間は不在、といったことが、当たり前だったんです。人がいなければ、当然売上が落ちます。そのため、それを前提に事業計画を策定し、見直していました。今ではそれが普通ですが、当時はいない人の分をどう補うか、という考えになりがちだったと思います。先ほど話したとおり、育児休業を取得する男性社員も増えています。女性・男性というくくりでなく、個々の事情に応じて、柔軟な組織運営ができる。こういう姿が、組織のあるべき姿だと改めて思います。
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4つの柱と重点施策
――今期改めて重点施策をまとめたと聞きました。内容を教えてください。
油谷:4つの柱を定め、それぞれの重点施策をまとめました。1つめの柱は「DE&Iの本質の理解」です。そもそもDE&Iとはどういうことなのか、当社はどんな状態を目指すのかを改めて自分の言葉で語り、考える機会として、まずは経営陣がディスカッションを行いました。その後、経営陣がオブザーバーとして参加し、本部長や地域本社・支社長、コーポレート・オペレーション部門長によるディスカッションを行いました。今後、事業本部の部門長を対象にしたディスカッションも計画しています。
2つめの柱は「エクイティの推進」です。多様な人材の活躍を支援する公平な機会の提供を進めていきます。今期、具体的に進める施策としては、家族の介護にあたる従業員へのサポートの強化、育休復帰後の女性だけでなく男性の働き方に対してのフォローを行います。また調査の結果、女性社員の社外出向や社外活動など社外での活躍機会が、男性に比べて1/3であることも分かりました。そういったことを把握すると同時に、活躍を阻害する要因があれば是正を図っていきたいと考えています。
3つめは「心理的安全性の高い職場づくり」です。せっかく多様な人材が集まっても、支配的なリーダーがいるために多様性が発揮できないということがあります。明らかに上司が間違っているのに「まさか上司がそんな間違いをするはずはない」「指摘したら怒られるかもしれない」「こんなこと言っても自分は得をしない」という意識が組織内に広がれば、多様性を活かすことができません。そこで当社では、以前から1on1を導入し、心理的安全性の高い職場づくりを進めています。定期的に上司と部下が1対1で対話をすることで信頼関係を築き、部下が安心して意見を言えるようにする仕組みです。
そして4つめの柱が「知と経験の統合による新たな価値創出」です。全社のナレッジを共有して活用する仕組みづくりやコミュニティの立ち上げなどを進めていきます。DE&Iの推進は目的ではなく、新たな価値を創造し会社として成長するために必要なのです。
――重点施策をまとめた理由は何ですか。
油谷:これまでの取り組みへの反省があります。従来から、年1回、新卒社員の男女別人数や女性社員の管理職比率、外国人比率、業務責任者の男女比率といったデータの報告はしていました。ただ、次のステップに向かうには、組織長が共通の課題認識を持ち具体的な行動につなげていく必要があります。そのため会社として目標を立て、計画的に育成を行い、この人には今後こういう経験を積んでもらうという具体的な育成プランを示し、経過をモニタリングしながらサポートする、という仕組みを回すことが必要だと考えています。D&I経営を開始した10年程前から採用を進めた女性社員が徐々に管理職年次に近づいてくるため、キャリア形成のサポートにも力を入れたいと思っています。
事業本部で進めた意識改革
――小保方さんは国土基盤事業本部で積極的に取り組みをされています。内容を教えてください。
小保方:前期(第73期)の6月から9月まで、DE&Iをテーマにしたディスカッションを行いました。国土基盤事業本部は特に、他の事業本部に比べて「女性活躍」という観点で後れをとっていると自覚しています。そのため、まずはリーダー層の意識を変えることを考え、部門長を対象に、女性活躍推進をテーマにディスカッションを実施しました。今期(第74期)は各部門長が旗振り役となり部門内での議論に拡大して進めています。
高西:事業本部独自に議論の機会を設けたのは意義のあることですね。DE&Iは会社が推進しているものという印象が強く、"わがこと感"がなかなか醸成されません。事業本部が自ら進めていくモデルケースになってほしいと思います。
小保方:最初はみなさん慣れない様子でしたが、2回、3回と回を重ねるごとに参加者の意識が変わっていったことを実感しました。やってよかったです。次は実際に行動をいかに変えていくかです。
――第74期、国土基盤事業本部に初の女性室長が2名誕生しましたね。
小保方:国土基盤事業本部としては大きな進歩です。恥ずかしながら国土基盤事業本部ではこれまで、室長としての適性があっても、女性に室長として活躍してもらうことができていませんでした。今回室長に就任したお二人は小さいお子さんがいらっしゃる方です。部門長を中心に、会社や本部の方針、ぜひ受けてほしいという想いを丁寧に伝えました。お二人の室長としての姿が、国土基盤事業本部の女性社員のみならず、室長になることに躊躇してきたすべての社員の希望の光になればと思います。個別の事情やさまざまな制約があっても、みんなが力を発揮できる環境をつくるのが私の役割です。
DE&Iで私たちの会社生活はどう変わるか
――この重点施策を進めることで私たちの職場や仕事、会社生活はどう変わっていくのでしょうか?
小保方:女性活躍に目が行きがちですが、本来は制約があってもなくても誰もが活躍できる場所にする、ということです。育児も介護も、それから自分自身が病気になることもあるかもしれません。どういう制約を背負っても、最大限能力が発揮できる会社にしなければいけないと思います。まずは多様な人を受け入れられる組織になることであり、中長期的には誰もが持っている力を存分に発揮して活躍できる組織にすることです。そうすれば制約が制約ではなくなります。
油谷:一人ひとりが自然体で活躍できるような会社になるといいですね。みんな何かしらやりたいことがあって、仕事をしていく中で子育てや介護がある人もいるし、勉強したい、趣味も大事にしたいという人もいると思います。いろいろな人のいろいろな思いがありつつ、それぞれが活躍できることが大事だと思います。そのためには一人ひとりが認め合うことが欠かせません。その前提として自分の状況をある程度オープンにして共有することも必要ですね。どういうことをしてほしいのかわからないし、いらない配慮をされる可能性もあります。ここはできます、でもここはみんなでやりましょうと、それが言えるチームづくりや環境整備をしていきたいですね。
高西:DE&Iの取り組みはまだまだ先は長くて、これを達成すれば終わりということはありません。国籍や障害、LGBTQなど、DE&Iで対応すべき多様性はまだまだあります。まずは女性活躍をという段階であり、だからこそ女性活躍はなんとしても前に進めたい。誰もが働きやすい職場になり、エンゲージメントも上がって心理的安全性の高い組織になっていくこと、それが会社の成長につながると信じています。